もうちょっとメイクビリーブ
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「あー……まぁ、いつか試してみるかも」
翼の力説っぷりに負い目を感じてそう言うと、翼は「今、試してみろって!!」と冷蔵庫からジンジャーエールのペットボトルを取り出してコップに注いだ。
「えー?まぁ良いけど…」
差し出されるがままに褐色の液体を飲み干す。
別に、変わった気はしないけど…
「うん……素直になれそう、かも」
とりあえず翼のためにそう言ってみる。それでも翼は不満そうな顔だったから、俺は逃げるように自分の部屋に向かった。
翼もああいう夢見がちなとこあるんだなぁ…
「……うわ、着信いっぱい…」
机の上に置いたままだった携帯は、今も東郷先輩からの電話が鳴り響いてる。
いつもなら布団をかぶるところだけど……なんとなく、ジンジャーエールの力を信じてみたくなった。
俺も翼のことバカにできないな…
「……もしもし」
「……中谷…」
東郷先輩の安心したような声。
やっぱり、悪かったよな…
「あの、さっきはすみませんでした……ひどいこと言って」
「……別に、怒ってねぇよ」
「俺、思ってもないこと言っちゃって……嫌じゃ、なかったのに…」
「……中谷…」
あれ、俺なんか、素直な気持ち言えてるかも。
もしかしたら……本当にジンジャーエールパワーなのか!?
「中谷……会いたい。お前に、今すぐ会いたい…」
「えっ?」
「今から、そっちに行く」
「いや、あの待っ…」
電話の切れる音とツーツーという電子音が聞こえて、俺は途方に暮れた。今から来るって言われても……緊張しちゃうな…
そんなことを考えていたら、翼が階段を上がってくる音がした。
ドアを開けると、上着をはおっている翼。
「あれ、出かけるの?」
「今からデートだから」
彼女とか……うらやましいな。
「あ、翼……さっきのおまじない、ありがとう。案外効いたよ」
すると翼はニコッと笑って「今度は会う直前に飲めよ。冷蔵庫にまだ残ってるから」と言ってくれた。
本当に、ジンジャーエールなんかでどうしてあんな素直になれたんだろう。
気持ちの問題だったのかな……いや、何にしろ素直になれたことは確かだ。
翼が家を出て、10分ほどたった。そろそろ東郷先輩がうちに来る頃だ。
俺は1階に降りて冷蔵庫のジンジャーエールを取り出した。
こんな味だったっけ……なんて考えながら2杯目のジンジャーエールを飲み干す。
この時は、素直になれた理由が本当に「気持ちの問題」だったって、俺は気付かなかった。
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