もうちょっとメイクビリーブ
『可愛い』
「んっ……や、嫌ぁ…」
「中谷……知ってるか?」
お前の『嫌』って言葉が、一番誘ってんだよ…
東郷先輩の言葉に思わず膝の力が抜けた。慌てて東郷先輩の肩を掴むと、勘違いした東郷先輩に思い切り抱き締められる。
もう……外でこんなの嫌だって言ってるのに!!
「中谷……可愛い…」
「や……やめてください…」
相変わらず東郷先輩は、学校からの帰り際にキスをせがんでくる。
断れない俺も俺なんだけど……
毎度毎度こんな恥ずかしい思いをさせられたんじゃあ、たまったもんじゃない。
「ひぁっ…」
東郷先輩の手が俺の尻に伸びてきた。どれだけ好きなんだよ、尻が……!!
「やだってば……ねぇ……ん…」
「中谷、そんな可愛い声出すな…」
「……か、可愛いって言わないで下さい…」
「……なんでだよ」
なんでって…
考えるまでもないだろう。
『可愛い』って言われて嬉しい男なんていると思ってるのか?
「こ、今後一切可愛いって言わないで下さいね!!」
「じゃあお前が可愛くて仕方ない時はどうすりゃいいんだよ」
「か……可愛くないですってば!!」
頭おかしいんじゃないのか……!!
そりゃかっこよくはないけど、可愛いってのは女の子に言う言葉であって…
「と、とにかく!!次、可愛いって言ったら…」
「言ったら?」
……えーと…
力では絶対適わないし、
東郷先輩の嫌がることって言ったら…
「き……嫌いになっちゃいますから、ね…」
苦し紛れにそう言うと、東郷先輩は目を丸くした。
あれ、失敗……?
かと思うと強い力で手を引かれて、俺はまた東郷先輩の胸の中に戻る。
「それさえ、可愛く言うんだもんな…」
「え……?な、なんですか?」
「わかった。二度と言わねぇよ……お前に嫌われたら、生きていけねぇ」
また、大げさな…
でもわかってくれて良かった。
もう『可愛い』なんて言われないぞ!!安心だ…
「あ…」
なんて思っていたら、東郷先輩が俺の頭上を指差した。
「中谷、頭に虫…」
「ひゃあっ!?」
俺は驚きのあまり思わず東郷先輩の胸に抱きついた。
鳥肌が止まらない。変な虫だったらどうしよう……!?
「せんぱ……とって…」
「もういねぇから……大丈夫だ」
「本当に……?」
顔を離して東郷先輩の顔を見ると、東郷先輩がニヤニヤしてる。
……しまった…
「中谷……さすがにこれは言っても良いだろ?」
「だ……ダメですっ!!」
「中谷」ともう一度呼ばれて、俺は何も返せない。くそ……情けないなぁ。
「観念しろよ……可愛いお前が悪い」
そう言って東郷先輩が呆れ笑いする。
かっこいいからムカつくよな…
「む、虫はちょっと苦手で…」
「……可愛いな」
むっ。
今のはわざとじゃないか……?
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