もうちょっとメイクビリーブ
。
──某月、2日。
「リュウ。進学先も決まったことだし、そろそろ昔の約束果たしてよ」
「あぁ?何だよ、昔の約束って?」
リュウは欠伸をしてタバコを取り出した。
これも意外だったな〜。
いつの間にか、リュウと屋上でサボるのが日課になった。
担任から注意されるけど、受験終わったんだからもういいじゃんって思う。
それに、リュウも俺もクラスに居づらい。むしろ学校に居づらい。
全校の男子に嫌われていた東郷リュウは、全校の男子から恐れられる存在になった。
今まで反抗するのが面倒なだけだったようで、東郷リュウはめちゃくちゃ強い。
しかも進学先が地元じゃ有名な不良だらけの高校だって言うんだから、そりゃ怖いよな。
「えーとなんだっけ、約束ね。なんで急に不良になりたいって思ったか。いつか教えてくれるって言ったじゃん?」
「……あぁ、あれな」
いつも冷静なリュウが、珍しく動揺する。
俺は座りなおして、リュウの話を聞き始めた。
リュウの話はすっごく遠回しでわかりにくかったけど、なんとか解釈するととても単純なものだった。
“すれ違った他校生に『あんな風になりたい』って言われたから”
「……マジで、それだけ?」
そんな些細なことで、不良校のトップ目指すの?
俺が信じらんねーと口を尖らせると、リュウは真面目な顔で呟いた。
「……忘れられねぇんだ。あいつの、顔…」
……あ。
なんだこれ。なんか、ズキッと来たぞ。
あーなんか、リュウの心を占めてる男って俺だけだと思ってたから、ちょっとショック……かも。
「……リュウ、会えると良いね!!そいつと」
「……別に、会いたいわけじゃねぇし…」
「だってリュウの人生を変えたわけだろ?」
俺は心に生まれた黒い気持ちを微塵も出さずに笑う。
平和主義者として、当然の行為だ。
……好き、だったのかもしれない。
伝えるべきかもしれない。
諦めずに想い続けるべきかもしれない。
でも、そういう生き方は苦手。
なんとなく生きていれば、なんとかなるから。
『一番理想的な生き方だね』
そう言った恋人もいた。
『すげー損してるぞ、それ』
そう言った恋人もいた。
確かに、俺ってあんま『本気』とか出さないタイプかも。
面倒ごとも嫌いだし……それってどうなんだろうね。
「……昴?」
リュウの声ではっと我に返った。
なんかいろいろ考えちゃったよ…
どっちにしろ、今生まれたリュウへの想いには蓋をする。
そんでリュウの親友もやめないし。
そうだな、ついでに。
「……会えると良いね、リュウくん」
リュウの人生を変えたそのスーパーマンが現れた時には、『本気』とやらを出して協力してあげよう。
そんな風に思った。
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