もうちょっとメイクビリーブ
◇
「本当に、すみませんでした…」
いくら土下座しても足りない気がする…
浮気が誤解だっただけじゃなくて、俺のためだったなんて!!
勘違いして暴走して、何してんだ俺…
「……これで信じてくれるか?俺はお前だけを、本当に愛してるって」
東郷先輩は呆れ笑いをしながらさらっと言う。
この笑顔も、俺だけの笑顔なんだ…
な、なんかすごい……安心しちゃったな。
俺は胸のネックレスをぎゅっと握った。長方形のシルバープレートには、十字のくぼみが入ってる。
シンプルでかっこいい。俺なんかより東郷先輩の方が似合うのに…
……それでも、嬉しい。
嬉しくてたまらないけど、同時に不安にもなった。
付き合ってるのに、俺は東郷先輩の愛情を受け取ってばっかりだ。しかも俺はそれを疑ったりして…
よく考えたら俺って最低だ!!
「と……東郷先輩!!」
急に大声を出されたからか、東郷先輩は目を丸くした。
「何だよ?」
「その……えっと、し…」
「し?」
「し……寝室に、行きませんか?」
東郷先輩はまた目を丸くする。
俺だってつい今まで、こんなこと言うつもりじゃなかった…
「……それは、そういう意味で言ってるのか?」
東郷先輩が遠回しに訊いてきた。当たり前だろう!!寝室って言ってるんだから…
俺が頷くと、東郷先輩が「本当に良いのか?」と念を押す。
「俺、今お礼できることって言ったら、これくらいだから…」
そう。俺ができる東郷先輩が喜ぶことってきっとこれしかない。
俺だってこうやって愛情を返してあげなきゃ…
ところが東郷先輩に肩を掴まれこう言われた。
「中谷……俺はお前に何度キスやセックスを拒まれようが、お前を嫌いになったりしねぇよ?」
「……え…」
「だから…無理にする必要なんてねぇから。お前が本当にしたい時に、言ってくれれば良いから…」
「……なっ…」
なんでそんな見え透いた嘘つくんだ。
俺はあんたが暴走したら止められない性欲を持ってるって、よく知ってる。
それなのに急に紳士ぶりやがって、どういうつもりなんだ!!
「俺が本当にしたい時なんて、永遠に訪れませんよ」
そう言うと東郷先輩は明らかに困った顔をした。
「だから、寝室に行きましょう…」
ていうか、恥ずかしいんだから何度も言わせるな……!!
東郷先輩はため息をついて一言呟いた。
「……覚悟しとけよ…」
……こ、怖い。
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