もうちょっとメイクビリーブ
◇
携帯のサブディスプレイを見た時、わが目を疑った。
『中谷力』
恋人から着信が来て驚く高校生なんて自分だけなんじゃないか、とも思うけど無理はない。
チカラから電話なんて初めてだったからだ。
日曜の昼間に、恋人から初めての電話。
最高のシチュエーションだ。
急いで通話ボタンを押すと「あ、東郷先輩ですか?」と愛しい恋人の声。
「どうした?」
「いや、あの……今、大丈夫ですか?」
大丈夫も何も、お前と話す時間より大切なものがあるわけないだろ…
「えっと……もし良かったらでいいんですけど、数学教えてもらえませんか?」
「……数学?」
「月曜に小テストがあって……な、夏樹に電話しても繋がらなくて!!わかる人を……探してて…」
チカラが俺を、頼ってくれてる…
こんなに嬉しいことがあるだろうか?
もちろん快諾すると、チカラが急に数式を唱え始めた。
「おい、待て……電話で教えるのか?」
「え、ダメですか?」
「ふざけんな、めんどくせぇ……会って教える方が絶対早い」
実際どう考えても、会うための口実だ。
だけどチカラはそんなこと思いつきもしない。
この鈍感なところが好きだ。
「うーん先輩がそう言うなら……今からおうち行ってもいいですか?うちは親がいるので…」
チカラが、うちに来る。
ガキみたいだけど、胸の高鳴りは抑えられない。
「早く来いよ」と念を押して、俺はチカラの到着を待つ。
数十分すると、インターホンが鳴った。
「……こ、んにちは…」
どこか気まずそうな目で俺を見るチカラ。
持ってる鞄には数学の教科書が入っているんだろう。
「……入れよ」
そう促すとチカラはおずおずと部屋に入る。
こんな時いつも思うんだ。
この部屋が、檻になればいいのに…
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