もうちょっとメイクビリーブ ○ 翌日。 ため息が3秒に1回くらい出る。 東郷先輩と話せたのは幸せだったけど、それを越える不幸をいくつも味わったな… 「……あ」 廊下で見つけた忌々しいその背中。 よく会うな… 「チカラさん!!おはようございます!!」 「夏樹!!おはよう」 「昨日は東郷先輩大丈夫でしたか?」 「あーただのサボりだった……ごめんな、夏樹…」 ため息をつきながら腰を押さえる中谷。 それだけで東郷先輩と何をしたのか、想像できてしまう… 「でも、何事もなくて良かったですね!!」 「そうかなぁ……自分勝手にもほどがあるよ」 喉から手が出るほど欲しかった、東郷先輩の心。 それを手に入れておいて、お前のその態度はなんだよ? 大体、お前は自分の身分をちゃんとわきまえてんのか? なぁ、中谷… 「う、わぁっ!?」 無意識のうちに、中谷の胸ぐらを掴んでいた。 「……あ、昨日の…」 「なんでお前なんだよ…」 「え……?」 「なんで東郷先輩の恋人がお前なんだよ!!」 叫び出したらもう止められない。 俺は心のままに中谷を怒鳴った。 「俺だって東郷先輩をずっと見てきたんだ!!なのにお前みたいな男がなんで…」 栗原の怯えた視線に気付いて、辺りを見回す。 廊下には幸い中谷と栗原以外、誰もいなかった。 「ご……めんなさっ…」 中谷は泣きそうな顔で俺に謝る。 でも謝罪の言葉が欲しいわけじゃない… 手を離して舌打ちをすると、中谷がもう一度謝ってきた。 謝ってほしいんじゃない。俺は、東郷先輩が欲しいだけなんだ… 「あれ、中谷がモテてるー」 その時、 廊下に新たな人物が現れた。 黒坂先輩… 「ねーリュウくん早くおいで。中谷がモテてるから」 更に黒坂先輩が階段の方に手招きすると、東郷先輩も現れた。 「中谷……?」 東郷先輩が近寄ってきた。 この状況は、マズい。 嫌だ、こんな嫌われ方は嫌だ… 「中谷、こいつとどういう関係なんだよ?」 東郷先輩は俺の方を見ずに中谷に尋ねた。 中谷……なんて答えるんだ? 変人のこいつのことだ。『なんかこの人東郷先輩のこと好きみたいですよ』とか言いそうだ… ところが中谷は俺の体を前に押して、キッと東郷先輩を睨んだ。 「と……東郷先輩には関係ありません!!」 「なっ……!?もう一回言ってみろ!!」 「夏樹ごめん!!」 そう言って昨日よろしく走り去る中谷。 こいつ本当、なんなんだ……!? [*前へ][次へ#] [戻る] |