もうちょっとメイクビリーブ
○
しばらくして、東郷先輩の低くて優しい声が聞こえた。
「……中谷……愛してる…」
……嫌だ。聞きたくない。
それは俺がずっと夢に見てた言葉だ。それをあんな、どこにでもいる平凡男に…
「やだ、せんぱっ……いっ痛いっ!!」
「……お前、ケガしてるじゃねぇか!?」
「たいしたことないでしょう……さっき転んですりむいたんですよ」
理由を聞かれた中谷はさっきと同じく「理由もなく自分の足に躓いた」と答える。
「なんだそれ……俺のいないとこでそんな可愛いことすんな」
……いやいや、それ可愛いか?
東郷先輩、中谷に超ド級でメロメロなんだな…
ますますショックだ。
「あ、そういえば……優しい不良さんに助けてもらったんですよ」
自分の話が出てドキリとした。バレてるとかじゃないよな……?
まさか。それはない。
「……優しい、不良?」
「はい、転んだ時に手をさしのべてくれたんです。うちにそんな良い人がいると思わなかったから、俺嬉しく……て、えっ!?」
突然中谷が叫ぶ。
カーテンは厚くて影さえ見えない。
何してるのか見たいような、見たくないような…
「中谷……俺の前で他の男を褒めるなんて、良い度胸だな?」
「はぁ……?」
「……俺だって……そこにいたら、お前を助けてやれたのに…」
や……やばい。俺、嫉妬されてる…
好きな人に嫉妬されるって、なんて変な気分なんだ…
「な、なに言ってんですか?そういうんじゃなくて…」
「お前はそうじゃなくてもあっちに下心があったらどうすんだよ」
無いです!!
貴方にならありますけど!!
俺のツッコミも虚しく東郷先輩と中谷の会話は続く。
「ひ、人の親切をそんな…」
「お前が無防備で鈍感だからだ。そろそろマジで監視カメラ付けるか?」
「か……勘弁して下さい!!そんなの……や、あっ!!」
耳を澄ますと、微かに中谷の荒い呼吸が聞こえた。
「やだ、こんなところで……頭、おかしいっ……あ、んっ…」
すげぇ……毒舌。
ある意味すげぇ度胸だ、こいつ…
「うっせぇな……知らねぇ男の話して、気分悪くさせたのはお前だろ?中谷…」
「う、あぁっ……!!やぁ……も、言わないから……許してっ…」
……あー…
すげぇ、うらやましい…
今、俺と中谷の体が入れ替わったら、どんなに幸せだろう。
東郷先輩にどんなことされてるんだ。
指?舌?なんだって良い。
俺だって、東郷先輩に触ってほしい。
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