もうちょっとメイクビリーブ Ryu side 「東郷先輩…」 さっきまで幸せそうに眠っていた恋人の声。振り返ると、素っ裸に毛布を羽織ったチカラが立っていた。 「なんで俺、裸なんです?いつの間に夜になってるし…」 「……戻ったのか?お前」 チカラのキョトンとした顔。ダメ元で今起こっていた事を説明した。 5年前のお前が体に宿っていたこと、未来がどうなってるか教えてやったこと、なるべく具体的に話してやったつもりだったのに、チカラの反応は予想通り。 「なんの冗談ですか?それ」 ……なんなんだ、こいつ… 俺だって信じられなかったけど、チカラの言う事だから信じた。チカラが嘘ついてるかどうかも顔を見りゃわかる。 それに… 「5年前、神社に行ったの覚えてねぇか?お前がなんか特別なやつ引いて、未来に行けるとかいうウワサ真に受けて…」 そこまで説明してやると、チカラはようやく「あっ」と声をあげた。 「そう言えば、あの日の夢で東郷先輩に会ったような…」 「忘れてたのか?」 「だんだん記憶が薄れていって……でも確かにこの部屋でなんか話しましたね」 何の話したんですか?とチカラ。 将来を不安がってた事を教えてやると、何度も大きく頷いた。 「そうだ!俺、先輩と違って平凡なのがコンプレックスだから…」 「保育士目指してるっつったら驚いてた」 「いや、保育士じゃなくて幼稚園教諭……何回説明したら覚えるんですか?」 お前がどんな環境でガキと接するかなんて考えたくねぇんだよ… なんて思いながら、毛布ごとチカラの体を抱きしめた。 「東郷先輩がモデルやってるって事の方が……ビックリしたんじゃないですか?俺」 「あぁ、そうかもな 」 クスクス笑うチカラの吐息が胸に当たってエロい。5年前はこれ以上エロい奴はいねぇと思ってたのに、そっから更にエロくなったよな… 「まだ寝てなくていいのか?ここんとこずっと夜中まで勉強してただろ」 「うーんでも……結構寝た気分です。さっきまでの記憶ないし」 そりゃそうか。俺も明日は午後から講義があるだけだし、今からメシでも遅くねぇか… 「中谷、晩メシはどうする?なんか作ってやろうか」 「本当ですか?でもその前に…」 チカラがおもむろに毛布を抑えていた手を広げる。毛布が音も立てず床に落ちた。 「せっかく裸だし、出しちゃいたいです」 「……本当エロいな、お前…」 「あ、でも5年前の俺と勝手にしちゃったんですもんね、今日はもうそんな気持ちじゃ…」 「あのな……裸でいるだけでもやべぇのに、俺がお前から誘われて断るわけねぇだろ」 むしろ願ったり叶ったりだ… チカラを抱きしめるついでに尻に手を這わせる。いつもはそこからチカラのことだけで頭がいっぱいになるのに、不思議と今までの事を思い出した。 「あ、はぁっ……せんぱい…」 これからチカラはガキの面倒を見る仕事を始めるんだろう。その頃には2人で新しい部屋を買った方がいい。 そうやって、チカラの歩む道にはいつも俺がいればいいと思った。 今までも、これからも。 「あ、そういえば……黒坂先輩と夏樹からメール来てました。また東郷先輩が載った雑誌を何10冊も買ってて…」 「……バカだな。あいつらはもう…」 [*前へ] [戻る] |