もうちょっとメイクビリーブ
チカラ
「じゃあとりあえず店廻るか!なんも決めてないんだろ?」
「そうなんだよ……お願いしますっ」
日曜日、俺は友達のてっちゃんとショッピングモールに来ていた。
東郷先輩の誕生日プレゼント、なんとしても今日決めなければ…
東郷先輩との約束を破ってまで来たわけだし!
うーん、東郷先輩怒ってるかな…
絶対良い物を買わなければ。
******
「こういうのも良いかもな。好き嫌い関係ないし」
「確かに!さっきのと迷うなぁ…」
良い物がなかったらどうしようかと不安だったけど、逆だった。
てっちゃんが勧めてくれると全部良い物に思えるんだ。
どうしよう、早く決めないと…
「ごめん、てっちゃん……俺、優柔不断で…」
「いっぱい迷った方が良いよ。プレゼントなんだから!お世話になってる先輩の為だろ?」
「……ありがとな!アヤちゃんがてっちゃんを好きなのわかるよ」
「なんだよ急に!照れるだろー!」
てっちゃんが俺にヘッドロックをかけるフリをした。
俺も笑って痛がるフリをする。
その時、後ろから視線を感じた気がした。
「あれ……?」
何気なく振り返る。
するとそこにいたのは…
そう、東郷先輩だった。
東郷先輩は俺を睨むとすぐに買い物客に紛れて、どこかへ歩いていってしまった。
「……あぁーっ!」
「チカラ!?」
「ごめんてっちゃん!今、先輩がいたんだ!ちょっと追っかけてくる!」
「あぁ例の…」
どうしよう、絶っ対怒ってる!
長身で金髪の東郷先輩は遠くからでも見失うことはなかったけど、足の長さが違うから全く追いつけない。
やっと東郷先輩の裾を掴んだ時には、もうショッピングモールを出ていた。
「東郷……先輩…」
ショッピングモールの外は駅だった。駅に行くためにはショッピングモールの中を抜けた方が早いから、東郷先輩もそうしていたんだろう。
それにしても、なんてタイミングの悪さだ…
「……なんだよ」
東郷先輩の冷たい声。
やっぱり怒ってる…
「あの、違うんです。あれはヘッドロックをかけられてただけで…」
「あ?」
「いやあの!そうじゃなくて、なんていうか…」
「……お前は、俺との約束断ってまで他の男とデートして、それでもまだ言い訳すんのか」
罪悪感と恐怖で、東郷先輩の顔が見れなかった。
うなだれる俺に、東郷先輩は更に冷たい言葉を投げかける。
「俺は、中谷がそういう奴だとは思わなかった」
東郷先輩はそのまま歩いて行ってしまった。
先輩に、軽蔑された…
怒られると思ったのに、怒られなかった。ただ軽蔑されただけだ。
俺、それだけの最低な事したんだ…
ショックで震える足を叩いて、先輩が歩いた方に走り出した。
謝らなくちゃ。どうしても、謝らなくちゃ…
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