もうちょっとメイクビリーブ
リュウ
「じゃあ、チカラさん東郷先輩さようならっ」
「夏樹もまた明日ね!気をつけて」
******
“リュウくん、もう手錠使った?”
昴の言葉を思い出した。
あんなもん使うわけねぇのに…
いや、返すのもなんだけど…
「それで、俺もその映画ずっと観に行きたかったんですよ。でも夏樹はもう観たって…」
隣を歩くチカラが俺の顔を覗きこんだ。
「東郷先輩?……聞いてますか?」
「は?聞いてないわけねぇだろ」
「本当ですか?ちょっとおかしいような……さっき黒坂先輩と別れた時に、何か言われたんですか?」
「……いや…」
まさか「もらった手錠を使ったか聞かれた」なんて、チカラには言えない。
「それより中谷、映画行きたいなら日曜に行くか?」
「えっ!?俺、日曜先輩と約束してましたっけ?」
「……忘れてたのか?」
なんて奴だ…
呆れていると、中谷は更に衝撃的な発言をした。
「ご、ごめんなさい……その日は、他に用事が入っちゃって…」
「他の用事?」
「はい……あの、外せない用なんです。他の日じゃ間に合わないし…」
先約の俺よりそっちをとるのか?
怒りが沸いてきたけど、泣かれてもイヤだから何も言わなかった。
家族とどっか行くとか、そんな用なんだろうか。
忘れた上に、他の用事を取るなんて…
「東郷先輩……怒ってますか?」
「別に」
「そうですよね……怒りますよね」
「……怒ってねぇよ…」
「怒ってますよね……本当にすみません…」
こういう時チカラは、演技じゃなく素でシュンとするから怒りが吹っ飛んでしまう。
むしろ可愛くて仕方ない。こんなの反則だ。
「怒ってるっつったら……キスでもしてくれんのかよ」
「えっ?」
歩みを止めてチカラと向かい合う。
チカラは真っ赤な顔をして固まっている。
「なぁ、中谷」
「えぇ……でも、誰か来るかも…」
「そう言って今まで誰も来てねぇだろ」
チカラは言葉に窮したのか押し黙ったかと思うと、目を瞑って顔を近づけてきた。
そんな距離から目瞑って大丈夫か?
と思ったら案の定、目的とは全く違う場所に唇が近づいてくる。結局俺の方から唇を重ねた。
「んっ……はぁ…」
しばらくチカラの口内を堪能して、俺は唇を離した。
「……じゃあな」
「あ……はい。さようなら…」
あー、可愛い。もっと俺だけのものだって証明したい。
離したくない、俺の恋人。
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