もうちょっとメイクビリーブ
∞∞∞∞∞
「さようなら、チカラさん!東郷先輩!」
「また明日ねー」
分かれ道が来てチカラと二人きりになると、チカラがぽそりと尋ねた。
「東郷先輩は、何歳までサンタクロース信じてましたか?」
「はぁ?」
「あ、もしかしてまだ信じてました?」
「いや……俺は生まれた時から信じてねぇよ。プレゼントをもらったこともねぇし」
「あ、そうですか…」
そんな話をしているとチカラの家の近くまで来た。
俺はいつものようにチカラを抱きしめて、唇を近づける。
抵抗しようか迷って、受け入れる瞬間のチカラの表情。これがたまらなく愛しい。
「んっ……ぅ」
「……中谷、可愛い…」
チカラの体が脱力してきた頃に離してやった。チカラの唾液が、まだ口の中に残っている。
「じゃあな……気をつけて帰れよ?」
幸せを噛み締めつつチカラの頭を撫でて振り向くと、消え入りそうな声で「東郷先輩」と呼ばれた。
「どうした?」
「あの……さっきは恥ずかしくて言えなかったんですけど…」
「なんだよ?」
「……ツリー、見たいです…」
一瞬なんのことだかわからなかったけど、すぐにさっきの会話を思い出した。
「中谷…」
「いや、やっぱり良いです!先輩興味ないみたいだし、別に先輩とじゃなくても…」
「中谷……俺以外の奴と行くな。連れていってやるよ」
「……本当に?」
チカラらしい、可愛いデートの誘い方だ。クリスマスだとかツリーなんかはどうでもいいけど、チカラと一緒にいられるなら嬉しい。
「他に行きたいところ、あるか?」
「いえ……あ、ケーキ食べたいです!クリスマスケーキ」
また縁のない言葉がでてきた。
「じゃあツリー見た後うちで食うか」
「やったぁ!楽しみです!」
チカラは満面の笑みでそう言うと、手を振ってうちに帰っていった。
“楽しみ”か…
ツリーに言ったのかケーキに言ったのかわからないけど、チカラが俺と会うのを“楽しみ”と言ったのは事実だ。
初めて12月25日に意義を見いだせそうな気がした。
そういう経緯で、今俺はクリスマスツリーの前でチカラを待っているのだ。
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