もうちょっとメイクビリーブ
黒坂昴のおまけ
バレンタインはお菓子会社の策略だとか、そんなの悲しいだけの真実だ。
身近なカップルが愛を深めようとしてるのに俺はそんなこと言えない。
「黒坂先輩!」
「あ、中谷おはよー。今日も寒いね」
「はぁ。朝は特に冷え込みが……じゃなくて、今日東郷先輩休みなんですか?」
「らしいね。中谷にも連絡あったの?」
頷く中谷は少し残念そうな顔をしている。
何事かと思案したら、今日はバレンタインデーの前日だった。
学校でリュウに渡すつもりだったのかな?リュウくんはできれば二人きりの時に渡してほしいんじゃないかなぁ。
リュウに負けず劣らず中谷もムードとかわかんないタイプ…
「黒坂先輩?」
「え?ごめん、なに?」
「だから……良かったら昼休み図書室に来てくれませんか」
図書室ってのは俺たちがいつも昼飯を食っている場所だ。
リュウと中谷が揃わなきゃ意味ないから、こういう日は別々に食べてるんだけど…
「いいよ。じゃあ昼休みにね」
何か話したいことでもあるんだろうと快諾して、中谷と別れた。
******
「二人には相談に乗ってもらったので……お礼も兼ねて」
昼休み、図書室で中谷が取り出したのは小袋に入ったチョコレートだった。
俗にいう、義理チョコ?
「はい、夏樹」
「うわぁ、ありがとうございます!」
「黒坂先輩も……良かったら」
「うわぁ、ありがとう」
夏樹くんの口ぶりに揃えてみたものの、リュウくんより先に食うのは気が引けるなぁ…
シンプルな小袋をもて余していると、中谷が俺の様子を見て顔を曇らせた。
「甘いもの、苦手ですか?」
「え、いや?別に」
「手作りが苦手とか……?」
「そんなことないけど」
なんでそんな質問……と聞こうとした瞬間、中谷の顔がどよーんと暗くなった。
「やっぱり不味そうですか?」
「え?」
中谷はお菓子の出来を気にしているらしい。なんでも弟に「見た目からして不味そう」と言われたとか…
「でも俺にはこれが精一杯で…」
ヤバい。中谷は今にも「やっぱり東郷先輩に渡すのやめます…」とか言いそうだ。
夏樹くんもその気配に気づいたみたいで、慌てて袋を開け始めた。
「お、美味しそうです!いただきますっ」
「俺も食べよー」
なんで俺たちが中谷に気を遣ってんだろ?まぁ良いけど。
小さなチョコレートを口に入れる。
中谷が感想を待っているような気がしたから、急いで味を確認した。
「……シンプルで良いんじゃない?」
「そうですね、美味しいです!」
夏樹くんと笑い合うと中谷はパァっと顔を輝かせた。
「良かった……良かったです!」
安心した中谷はお茶を買ってくると言って図書室から出ていった。
姿が見えなくなったのを確認して夏樹くんに呟く。
「いや、美味いけどさ……硬いよね」
「ちょっと硬いです……まぁ、手作りって感じですよね」
リュウくんはこれを食べてなんて言うんだろう…
“恋は盲目”というけど、味覚までもをごまかしてくれるんだろうか?
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