もうちょっとメイクビリーブ
再び東郷リュウの章
――ごぶさたしてます。
あぁ……俺、また夢を見てるのか。
あの声が聞こえる。
――貴方の恋人を人間に戻す準備が整いましたよ。
おせぇよ。
けど、チカラが聞いたらきっと喜ぶ。
早く目を覚ましたい…
――あ、待ってください。最後の確認なんですけど、本当に戻していいんですか?
当たり前だろ。
なに言ってんだろうコイツ。
――だって昨日、このままで良いとか言ってたじゃないですか。
なんでも聞いてやがるな……なんなんだお前は本当に。
確かに一瞬そう思ったけど、このままで良いわけねぇだろ。
――このまま戻らなければ、ずっと一緒にいれるのに?
あぁその通りだよ…
でも、ちげぇんだ。
そんな鎖なんかなくても良いんだ。
チカラが今、俺のそばにいてくれれば俺はそれでいい。
それで幸せなんだよ。
――わかりました。じゃあお望み通り人間に戻しますね。
“お幸せに”
そんな声が聞こえた気がした。
俺はそんなこと他人に言われなくたって、チカラさえいれば幸せなんだ…
******
そこで目が覚めた。
そばにはいまだに眠っているチカラ。
たださっきと違うのは…
「……戻ってる…」
可愛かった猫耳が消えてるのはちょっと惜しい。
たぶんしっぽもなくなってるんだろう。
あとは…
「……中谷」
「んん……ん?」
「……可愛いな」
「可愛くないって……ぅああっ!?」
良かった。
喋れるようになってる…
「あれ!?俺……耳は!?あぁっ」
チカラは自分の体を触りつつずっと叫んでる。
「戻ったんだ……先輩なんで、驚いてないんですか?」
「夢で見たからな」
「あぁ……そっか、良かった…」
チカラの目から涙が溢れだした。
また泣くのか?いい加減枯れないんだろうか。
「良かった……すごい、怖かった…」
「良かったな」
震えるチカラの体を優しく抱き寄せる。するとチカラが嗚咽まじりに何か話し始めた。
「東郷先輩……あのね…」
「ん?」
もしかして、さっきの『元の姿に戻れたら話す』ってやつだろうか?
チカラは小さな声で続けた。
「あのね……俺、イヤじゃないです」
「……何がだよ?」
チカラは『わかんねぇのかよコノヤロウ』みたいな顔をした。
昨日の記憶を必死にたどってみても、思い出せない。
「なんの話だよ?中谷」
「だから……将来、一緒に住むって話」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
急いでチカラの体を離す。
「い……良いのか?」
「保証はできませんけど……約束します」
チカラは涙ぐみながら笑って言った。
「俺、東郷先輩と一緒にいるの……そこまでイヤじゃないです」
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