もうちょっとメイクビリーブ
東郷リュウの章
――こんばんは。
あぁ、またあの声だ…
ってことは俺、夢を見てるんだな。
――なんかすごく嫌がってるみたいですね。せっかく願いを叶えてあげたのに。
そうだ。コイツがチカラを猫にした犯人なんだ。
くそ、夢じゃなければ絶対殺してやるのに…
そんなことより、どうすればチカラは元に戻れるんだ。
――え、やっぱり人間に戻りたいんですか?困ったなぁ。戻すのにも数日かかるんですよね。
数日ってどれくらいだよ?
そう思った瞬間、答えが返ってきた。
――数日としか言えないです。その人の体質によるんですよね……1日かもしれないし、1週間かもしれません。
1日から1週間……それだけ待てば、戻るんだな。
――戻りますよー。あ、でもキスは禁止です。
驚いて黙っていると、その声が続けた。
――今、貴方の愛の力で願いが叶っている状態なんですけどね。唇を重ねると愛が恋人に移って戻れなくなっちゃうんですよ。不思議ですよね。
チカラとキスできない?
あんなに可愛いチカラと二人きりでいるのに、キスが…
――まぁ唇と唇じゃなければいくら接触しても構いませんから。ではさようなら。
おい、待てよ。本当にキスはダメなのか…
******
「……にゃあっ」
チカラの声で目を覚ますと、チカラはベッドの上じゃなくて部屋の入り口に立っていた。
「中谷?」
起き上がるとチカラが近づいてきてメモ帳を見せる。
『パン勝手に焼いちゃいました!朝ごはんにしましょう』と書いてあった。
コイツ……世界一良い嫁になれる。
朝の支度を終えてパンを食いつつ、昨日の夢について説明した。
チカラは『数日かかるけど元に戻れる』と聞いた途端、目を潤ませて喜んだ。
俺だって、ひと安心だ…
「けど……そのかわり、キスしちゃいけねぇらしい」
「にゃ?」
「そういうルールがあるんだとよ」
チカラはキョトンとした後、メモを書いて俺に見せた。
『キスができないくらいなんてことないです』
「……そうかよ、俺はすげぇイヤだけどな…」
なんなんだコイツは!
恋人とキスができないなんて聞かされたら、普通はもっと…
「にゃ?」
テーブルの上の携帯が震えた。
発信者は黒坂昴。そういや今日も学校はあんだよな…
「……なんだよ」
『あっ、リュウおはよー!中谷の具合はどう?』
「まだ良くねぇから……今日も休む」
『結構ひどいんだ?お見舞い行ってあげようか?夏樹くんも連れて…』
「いい!来るな、殺すぞ」
『ハイハイ、二人きりでいられるチャンスですものね。でも心配してるんだからね?特に夏樹くんは』
二人きりでいられるチャンス?
確かにそうかもしれない。こんなことでもない限り、チカラは…
『まぁ中谷の具合が良くなるまで同棲気分を楽しんでよ。じゃあね』
そう言って昴は一方的に電話を切ってしまった。
チカラが『黒坂先輩から?』と書かれたメモを見せている。
このままチカラが戻らなければ、永遠にチカラと一緒に暮らせるんだろうか?
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