もうちょっとメイクビリーブ
中谷チカラの章
頭が真っ白だ。
もやもやと浮かんできたのは、昨日の会話。
先輩とした、気まぐれな会話だった。
******
「中谷……そろそろ笑えよ」
「……無理です」
落ち込んでいたのにはワケがあった。
今回の期末テストで思うような結果が出せなかったのだ。
校内順位は良かったけど、この高校でこの順位じゃマズい。
笑う余裕なんて、全くなかった。
「中谷、早く笑えよ……お前の笑顔見るまで、帰さねぇからな」
「えぇ…」
東郷先輩の言葉に、俺は更に落胆した。
放課後、東郷先輩に家に来るよう命令されて断る気力もなく引きづられるようにお邪魔した。
でも、泊まるのはさすがに面倒だ…
「……中谷、テレビ観ろ」
東郷先輩に言われてテレビに目をやると、『人気の子猫特集』という企画をやっていた。
恥ずかしながら俺は大の猫好き。
ちょっとテンションが上がった。
「うわぁ……やっぱり可愛いなぁ、猫ちゃん…」
「元気出たか?」
どうやら東郷先輩なりに俺を励まそうとしてるらしかった。
嬉しい……けど。
「いいなぁ……俺、猫になりたいなぁ。テストもないし、自由で気ままで…」
「中谷…」
ダメだ。やっぱりまだテストのショックから立ち直れなかった。
すると東郷先輩が呆れたように言う。
「とりあえず今日は泊まれよ。もう、我慢できねぇ…」
来た…
東郷先輩の熱を帯びた視線。
まぁいいや。猫見せてくれたし、泊まってあげよ。
んで東郷先輩がお風呂入ってるうちに、寝ちゃえ…
******
で、その通りにした。
そして今、目が覚めたわけだけど…
体がおかしい。
なんで東郷先輩に添い寝されてるんだとか今はどうでもいい。
とにかく頭に違和感があるんだ。
すやすや眠る東郷先輩を起こさないようにゆっくり頭に手をやる。
……み…
耳だ。
いや耳は昨日までもあったけど、それはちゃんと顔の横にあった。しかも丸くて肌色の、人間の耳だ。
今はそれがなくなっていて、変わりに頭に2つ、三角で毛の生えた耳が付いている。
俺……耳だけ猫になっちゃったのか!?
いやいや……あ、ありえない。
東郷先輩のイタズラ?そっか、これはカチューシャ(だっけ?)で、実は着脱式…
いやいやいや!!だったらなんで本物の耳がなくなるんだよ!?
試しに猫耳を引っ張ってみると、痛かった。つまり、これに俺の神経が通ってるわけで…
『いいなぁ……俺、猫になりたいなぁ。テストもないし、自由で気ままで』
俺……猫になっちゃったのか!?
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