もうちょっとメイクビリーブ
.
「中谷!!」
俺を呼ぶ誰かの声で、意識が少しハッキリした。
割れそうな頭を持ち上げると、息を切らした東郷先輩がすぐ目の前にいた。
「大丈夫か!?中谷!!」
「東郷……せんぱっ…」
東郷先輩の顔を見た途端、せきを切ったように涙が溢れてきた。
「お前なんで制服……寝てなきゃダメだろ!?」
「やだ……学校……行かなきゃ…」
「バカ言うな!!」
東郷先輩怒ってる……嫌だ、嫌われるのは、嫌だ…
「助けて……俺、夏樹に嫌われちゃ……頭、痛いし…」
「何言ってんだよ……転校生がお前を嫌うはずねぇだろ!?」
東郷先輩にそう言われて、胸が熱くなった。俺、夏樹に嫌われてないのかな……?
「東郷先輩は……?俺のこと、嫌いじゃない……?」
泣きながら尋ねると、急に東郷先輩に抱きしめられた。
「バカ野郎!!好きに決まってんだろ……だから、心配させんな!!」
東郷先輩の腕の中で、俺はただ泣き続けた。
「中谷……立てるか?」
体を離して東郷先輩が尋ねる。
「……立てない…」
「じゃあ、首つかまれ」
言う通りにすると、東郷先輩は器用に俺を抱きかかえて立ち上がった。
玄関の中に入り「部屋、どこだ?」と尋ねる東郷先輩に俺は自分の部屋を案内する。
東郷先輩は言われるがままに俺の部屋にたどり着き、片手で俺を抱きかかえたままもう一方の手でドアを開けた。
「ほら、寝てろ……中谷?」
東郷先輩は俺にベッドに下ろしたけど、俺は首に回した手を離したくなかった。離したら東郷先輩がどこかに行ってしまいそうで、怖かった。
「中谷……?」
「こ……ここに、いてくれますか?」
東郷先輩はため息をついて「当たり前だろ」と言ってくれた。
俺がようやく手を離してベッドに座ると東郷先輩は辺りを見回した。
「薬は?なんか飲んだか?」
俺が首を横に振ると東郷先輩は「取ってきてやるよ」と言って踵を返す。
「や……やだっ」
俺は東郷先輩の腕を掴む。
東郷先輩は不思議そうに振り返った。
「ひ、一人に、しないで……下さい…」
もう、さっきまでみたいな寂しい気持ちは味わいたくない。
今だけは、東郷先輩と片時も離れたくなかった。
「……か…」
東郷先輩は一言そう呟くと、また俺を抱き締めてきた。
「中谷……大丈夫だから。俺がいるから…」
「ほ、本当に……?俺のこと、嫌いじゃない?」
「何回聞いても変わんねぇよ。愛してる」
そう言うと東郷先輩は俺の部屋を一度出ていった。
頭は相変わらず痛いけど、さっきより少しマシになった。吐き気も収まったし…
俺は布団の中に潜り込む。
すると枕元の携帯が点滅していた。見ると東郷先輩からの幾つもの着信と……メールが一件。
『チカラさん、大丈夫ですか?きっと僕が移してしまったんだと思います。
僕も1限の途中で急に気分が悪くなって今まで保健室で寝ていました。
本当にごめんなさい……!!』
夏樹からだった。
なんだ、夏樹も具合が悪かったのか…
心配して損した。いや、夏樹の風邪は心配だけど…
どっちが移したのかなんてわかんないよな。同時に悪くなったわけだし…
とにかく、夏樹に嫌われてなくて、よかった…
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