ショート*ストーリー
Yuzuki-3
朝日のキスは、甘くて優しくて、そのまま溶けてしまいそうだった。
むしろこのまま溶けてしまいたい。
朝日と、このままずっと…
そう思っていたのに、朝日は唇を離してしまった。
朝日……離さなくて良かったのに。
もう一回、してくれないかな?
俺は必死で口実を探した。
やっぱり、これしかない…
「もうちょっとだけ……教えて」
「……え」
朝日の反応に、ビクンとした。やっぱり訝しがってる?
「い、今のじゃまだ覚えらんなかったっていうか…」
こんな説明で、信じてもらえるだろうか…
でもどうしても、もう一回朝日にキスしてほしかった。
「じゃあ……もう少しゆっくりやるか?」
朝日の優しい声。
俺は調子に乗って注文をつける。
「い……いや、もっと、激しく……して」
緊張で死にそうになりながらもそう言うと、朝日の顔がまた近づいてきた。
やった……またさっきの気持ち良さが味わえる。俺は目を瞑った。
朝日は言った通りさっきより激しいキスをくれた。どうやって習得したんだろう?
もし俺が本当にキスを教えてもらってるとしても、朝日みたいなキスは一生覚えられないよ…
急に玄関の方からガチャリと音がした。
「……母さんだ」
そう言うと、朝日は俺から体を離した。
寂しさで、胸がぎゅっとしめつけられる。
朝日、どんな思いで俺にキスしたんだろう…
やっぱり彼女とする時のために教えてくれただけなんだろうか?
ってことは、『俺が朝日とキスしたいから』なんて理由じゃ、キスしてくれないんだな…
そりゃそうだよな。朝日はそういう奴だよ。
……でも、俺は朝日とキスがしたい。
練習台なんていう名目はいらない。ただ朝日とキスがしたい。
嫌われたくないから、そんなこと一生言えないけど…
朝日が何も知らずに「早く彼女とキスできるといいな」なんて言うから、俺は、こう返すしかなかった。
「うん。彼女に喜んでもらえるように頑張る」
俺は嘘をつく。この世で一番愚かな嘘を。
[*前へ]
[戻る]
無料HPエムペ!