ショート*ストーリー
∞
「れーいっどっちが鍵開ける?」
玲は俺の質問に答えず早々と鍵を取り出す。
それでも負けじと「俺たち新婚さんみたいだねっ」と言うと、危うく階段から突き落とされそうになった。
玲、冷たいな…
せっかくの放課後デートなのに玲は寄り道させてくれなかったし。
まぁ一緒に夕食の買い物できたから良しだな!!
マンションの階段を上り終えてからも、俺は懸命に玲に話しかけ続ける。
すると、廊下で知らない女の人とすれ違った。
その時すでに何か違和感を感じたんだけど、後ろから「湊!!」と呼ばれてさすがにゾッとした。
「……美央?」
振り返ると、相変わらず茶髪で巻き髪でいかにもギャルっぽい格好してる美央の姿。
「やっぱり湊だ!!なんでいんのー!?」
「えーと……なんででしょう、ね…」
俺は引きつり笑いしながら夕食の材料が入った袋を後ろに隠す。
だけど、目ざとい美央にすぐ気付かれてしまった。
「湊、ここに住んでるの?」
「いや、そういうわけじゃなくて…」
「まだ趣味で料理やってんだ!!まじウケるから!!」
ウケないって…
俺が返事を濁していると、美央が突然「友達?」と訊いてきた。
美央の視線の先には、どうして良いかわからずにいる玲。
「あぁ、玲はみら…」
……『未来の恋人』って、赤坂の前でいつもそう表現してるから。
言いそうになっちゃったじゃんか……!!
「みら?」
「みら……ミラノで知り合った、友達…」
「えー湊って英語苦手じゃなかった?」
イタリアだよ!!
いや、そんなことはどうでも良くて…
あーもうとにかく美央どっか行ってくれ!!
「美央、俺たちお腹空いてるし……じゃあね」
って言ったのに、こういう時の『女の勘』って本当怖い。
美央の目つきが急に真剣になって、俺は嫌な予感がした。
「……料理、食べさせてあげたい子って…」
「……な、何言ってんだよ美央…」
ヤバい。これ以上は玲に聞かれたくない。てゆうか玲なんで先に帰っててくれないの?
いや、待っててくれるのは嬉しいけど…
俺は頭の中で美央の言葉を止めるすべを探す。だけどこいつのマシンガントークを俺は止められたことがない。
「湊、言ったよね?あの時……この人のことなの!?ねぇ、男なの!?違うよね!?」
「美央、落ち着け……その話は来世でしようよ」
俺たちの言い合いがさすがに気になったのか、玲が俺に「おい、どういう…」と言い掛けた、その時だった。
「湊言ったよね?『新しく好きな人ができた』って言った時、『俺の料理を食べさせてあげたいから』って……そう言ってあたしをフったよね!?」
……い…
言っちゃった。
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