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ショート*ストーリー
Asahi-1
携帯を忘れた。

履き終えたばかりの靴をもう一度脱いで、俺はユズの部屋に引き返した。
足音一つたてずに階段を上る。
部屋の前まで来ると、俺はノックしようかどうかと迷う。
実際迷ってなどいないけど。

「……ぁ、はぁっ…」

聞いたことのない、ユズの不思議な声を耳にする。
俺は気付かれないようゆっくりと、部屋の扉を開いた。
姿は見えないけど声が聞こえるくらいの隙間を開けて、耳をすます。

「ん……あさ、ひっ……あぁっ…」

ユズが途切れ途切れに呼んでいるのは、俺の名前。俺は息を殺してドアの隙間を広げる。

「あさひ……ん、はぁっ…」

ユズは部屋の扉にちょうど背を向けて座っていた。

「……ユズ」

ついに俺はユズに声をかけた。
びくついていたユズの肩が、ぴたりと止まる。
ゆっくり頭が回って、ユズと目が合った。

「……あ……さひ…」

ユズは瞬きさえしない。
でも徐々に体が震え始めた。

「なんでここに……?」

擦れ声でユズが尋ねる。
俺はユズの間抜け顔を見つめて用意してあった答えを言った。

携帯を忘れたから。

「……っていうのは口実で、ユズのオナニー覗きにきた」

全部計画通りだ。
なぁユズ、お前は何も知らないだろ?

俺は、嘘をつくのが上手いから。

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