ショート*ストーリー
歪なレプリカ
俺はあいつ。
あいつは俺。
今さら恨む気にはなれない。
優れてるとか、劣ってるとか、そんなのは関係ない。
似てるとか似てないとか、そういうのも関係ない。
あいつがいる限り、俺はあいつ。
実際、俺とあいつは見た目も中身もあんまり似てない。だけど『あいつと同じ』も『あいつと違う』も『あいつ』がいるから言われるわけで、あいつと切り離されることとは別物だった。
髪型を変えても喋り方を変えても、『あいつと違う俺』になるだけで『俺』にはなれない。
『ノゾミと同じは嫌』
『ノゾミと違うのも嫌』
どうして、常に誰かを意識して生きなきゃいけないんだ。
小さい頃はそんなことでよく悩んでた気がする。
「やだっ……もう、いい加減……やめ…」
「そう言われて俺がやめたことある?」
「ない……けどっ……あぁっ!!」
こうして朔を抱いていると、昔の思い出がよく蘇る。
忌々しい。この忌々しさを消すために、俺は朔の性器に爪をたてた。
「あっ……あぁーっ!!……の、り…」
朔の魂胆は最初からわかってた。
すぐに感付いたんだ。『紺がうらやましいんじゃないか』って。
案の定、朔が求めてるのは明らかにノゾミの面影だった。
『イノリくんも、そっちの人なの?』
『ホント……ノゾミくんと似てないね』
『ノゾミくんは良い声で鳴いてたけど』
朔の言葉は、俺の何かを呼び覚ました。
俺とノゾミの違いを思い知らせてやる。お前の期待を全部裏切ってやる。
それで俺を嫌いになればいいと思った。
「朔……」
気を失った朔から、ズルリと性器を抜く。
ここで帰ってしまうのが、俺の癖だった。
セックスが終わった後の虚無感が、大の苦手なんだ。
本当は、今俺とセックスしたという相手の記憶を消してしまいたい。それができないから、とりあえず逃げる。
朔とした時だけ、それができなかった。
どうしても足が踏みとどまった。『俺から逃げられると思わないで』なんていうバカなセリフを吐いて、自分から会いに行った。
「さーくーちゃん…」
朔。俺を嫌うお前を、支配したくてたまらない。
ノゾミと一緒にされた腹いせだったのに。ノゾミの知り合いなんか、関わりたくないのに。
それとも、逆なのかもしれない。ノゾミの面影を、消したりないから?
どっちにしろ、こんなはずじゃなかったのにな…
朔、まだ足りない。
もっと嫌えよ。
もっと支配したいんだ。
もっと朔の怯えた顔が見たい。
もっと朔の痛がる声が聞きたい。
『ノゾミと同じは嫌』
『ノゾミと違うのも嫌』
そうだよ。
俺は、昔からちょっと歪んでるんだ。
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