ショート*ストーリー
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それから1週間。何度もあの情事を思い出しては、必死に頭から追い出す日々が続いた。
イノリとは……一度も会っていない。俺は1年、イノリは3年だから校内で出くわすこともなかなかないわけで、それはすごくラッキーだった。
「朔くん、こんにちは」
「の、ノゾミくん……休日来るの珍しいね」
兄貴とノゾミくんの関係は、相変わらず続いてるみたい。
一応ノゾミくんに『ノゾミくんの片割れに挨拶した』とだけ言ったけど、ノゾミくんには『聞いてないなぁ』と返された。
どうやらイノリとノゾミくんは、あんまり仲が良くないんだね。
にしても、ノゾミくんの顔を見る度、気まずい気持ちになる…
どうしてもイノリの顔が浮かんでくるし、隠してることがたくさんある。
だけど、ノゾミくんと兄貴の情事を盗み聞きしたことも、ノゾミくんの片割れに抱かれたことも、一生言わない…
「朔、俺、今から、ノゾミの家行くね…」
兄貴の言葉に目を丸くした。じゃあなんでノゾミくんがいんのさ。
「あ、俺がここまで来たのにはワケがあって……客を連れてきたんだ」
背筋が凍った気がした。
まさか……まさかだよな?
俺は必死で神に祈った。
だけどノゾミくんに促されて部屋に入ってきたのは…
「朔ちゃん、久しぶり〜」
やっぱり……イノリ。
俺が口をパクパクさせていると、兄貴とノゾミくんは
「朔、ノゾミのお兄さん……仲良かったんだね…」
「急に連れていけって言われてさ……ちょっと相手してやってね。じゃあ」
と言いながら部屋を出ていった。
俺の心の叫びも虚しく、玄関のドアが閉まる音がする。
目の前にいるこの男の存在を、俺はまだ信じられなかった。
「だって……もう会わないっつったじゃん」
俺が突然そう言うと、俺の反応をニコニコと見つめていたイノリが急に真剣な顔つきになった。
「俺から逃げられると思うなって、言ったよな……朔?」
『俺も兄ちゃんと同じヤツ、欲しい』
これが、幼い頃の俺の口癖。
レプリカだってなんだって良いから、兄貴と同じ物が欲しかった。
だけどこのレプリカは思いもよらないほどの危険物で、俺の人生を狂わそうとしている。
今の俺にできることなんて、早くも俺をベッドに押し倒したイノリに、無駄な抵抗をすることくらいだった。
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