ショート*ストーリー Asahi-1 あー… 気持ちい。 もう何がなんだかわかんねーくらい気持ちいい。 唇ごと、溶けそう。 つーか溶かしてやりてぇ。 口がきけないようにしてやれば、俺だってこんな苦しまずに済むのに。 2週間前のことだった。 「朝日!!俺、彼女できたんだ!!」 「ユズに……彼女?」 稲葉柚樹は俺のクラスメイトで、親友だ。 1年前だから……高1の時、俺が一人でいたアイツに声をかけてやったのが始まり。 ユズは大人しい性格で、いつも俺の後を付いてきた。 他のクラスメイトが『柚樹は朝日の犬みたいだな』とからかうくらいだ。 ユズは必死で否定してたけど、俺は別に嫌じゃないからなんも言わなかった。 「1組の安部さんっているだろ?昨日こ……告白、されてさっ」 そのユズに、彼女? なんかの間違いじゃねーの。 毎日俺にくっついて生活してただけじゃん。 「俺こういうの慣れてないからさ……朝日は慣れてるだろっ?いろいろ、教えてくれよな!!」 別に慣れてねーし… 大体教えるって何をだよ? バッカじゃねーの… そして、2週間後。 今までユズにこれと言った変化はなかったから、俺は胸を撫で下ろしていた。 ユズのノロケなんて聞いても絶対おもしろくねーもん。 それでも、安部とかいう女の存在は俺の心を乱した。 一緒に歩いてる時、ふと隣を見たらユズが笑ってるだけで『こいつ彼女のこと想ってんじゃねーの』と思い込んでしまう。 生まれたその疑惑を、拭い去ることはできない。 ユズといる時間を心から楽しめない。 あんな、たいしたことねー女のせいで… そんなことを考えながら家まで歩いていると、急に声をかけられた。 「朝日!!今、帰りか?」 クラスメイトの西岡だった。 俺が頷くと、西岡はニヤリと笑った。 「さっきさぁ、柚樹らしき人見たわ。遠くからでよくわかんなかったけど、たぶん彼女といたぜ」 ユズが……? そんなの、聞いてねーよ。言われてもムカつくけど、言われないのもムカつく。 「柚樹も朝日の犬のくせに、ちゃっかりやることやってんじゃねぇ?」 からかうように言うと、西岡はそのまま歩いていった。 そっか……付き合い始めても一日中俺といるから『いつ会ってんだ』と思ってたけど、登下校だったか。 俺とユズは家が反対方向だから、一緒に帰れないのだ。 いやでも……西岡の見間違いかもしれねぇし。 そう考えても、気になって仕方ない。 せめて真偽を確かめたい。 そう思ってユズに電話をかけた。 「……もしもし」 数秒でユズは電話に出た。 「……ユズ?今、家?」 「まだ……もうすぐ着くけど」 なんだ……1人じゃねぇか。 さて、これで切るのは変だよな。 そう思った俺はユズの家へ行くことにした。 [次へ#] [戻る] |