メイクビリーブ
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東郷先輩が眉をひそめた。
「俺の名前、なんですか?」
「……中谷」
違うだろ。
呼ばれ慣れた俺の名字。だけど、ちゃんと言ってほしいことがある。
「本当は俺のこと、なんて呼んでるんですか……?」
東郷先輩が目を丸くした。
黒坂先輩に聞いた『おまけ』は、東郷先輩の最初についた嘘だった。
『今の話聞いてわかったと思うけど……リュウはお前の名前ずっと知ってたよ。中谷力』
『え、でも最初に……』
夏樹を助けてもらったあの日、確かに『俺の名前も知らないですよね?』と尋ねたら『なんて言うんだよ、名前』と返された。
『あれ嘘。リュウくん嘘つくの好きだよね〜』
更に
『今でもリュウは中谷のこと陰では名前で呼んでるよ。聞いてみな』
と言っていた。
「……俺の名前、なんですか?」
「……ち……ちか、ら…」
見ると、真っ赤な顔の東郷先輩。
なんか俺まで恥ずかしくなってきた。
「嘘ついたんだから、それも謝って下さいね」
「悪かった…」
少しの沈黙の後、東郷先輩は小さく呟いた。
「聞いたのか、昴から…」
「あー……はい」
東郷先輩は大きくため息をついてぶつぶつ何か言ってる。
黒坂先輩を呪い殺すつもりなのか……?
「言ってくれたら良かったのに」
「言えるかよ、かっこわりぃ。それに……お前に嫌われたくなかった」
理由も言わず『付き合え』とか言う方がよっぽど怖いよ。なんでわかんないのかな…
「じゃあ、今言って下さい」
東郷先輩は一度下を向いた後、決心がついたのかまた顔をあげた。
「ずっと……好きだった。チカラのことが、ずっと…」
それだけ言うとまた俯いた東郷先輩。
……思ったより、恥ずかしい。
俺、告白なんて初めてされた。したことならあるけど。
ていうか本当恥ずかしい。
「……返事は?」
東郷先輩が俯いたまま尋ねる。
えっ返事しなきゃいけないのか!!
そこまで考えてなかったなぁ…
どうしよう。OKしちゃうのか?
でも付き合ったらああいうことも受け入れなきゃダメなんだよな…
脳裏に浮かんだあの出来事。
うーん……どうしよう。
あ、その前に言いたかったことを言っておかなくちゃ。
「……俺、東郷先輩にすごい憧れてました」
予想外の言葉に東郷先輩も驚いたみたいだった。
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