メイクビリーブ
☆
「いませんね……」
青空の下に広がるコンクリート。そのどこを見渡しても、金と黒の頭はなかった。
「チカラさん、2年の教室に行ってみましょうか……?」
「……いいよ。夏樹、教室戻って早く食べよう」
お昼休みに屋上へ行って、また教室へ戻る。
もうこれで1週間たった。
初めの数日は『ケガが治ってないからかも』と言い聞かせていたけど、そんなこと言ってられなくなったな…
もちろん放課後のお迎えも1週間ない。
今日も夏樹と2人で帰ることになった。
「チカラさん、東郷先輩に電話してみては?」
夏樹は何度もそう言ってくれるけど、そんな気になれなかった。
だって…
『条件は俺と付き合うことだ』
『恋人ごっこは終わりにしてやる』
そうだよ、俺はやっとあの条件から解放されたんだ。ずっと嫌だったんだ。
やっと東郷先輩から解放されたのに……自分から会いに行くことない。
でも……なんか、スッキリしないよなぁ。
「チカラさん……本当にこれでいいんですか?」
「うーん……たぶん」
「……僕は、チカラさんと東郷先輩の2人が……憧れでした…」
……は?
「何言ってんの?夏樹…」
夏樹は冗談じゃない、と首を振った。
「東郷先輩はチカラさんをすごく大事にしてると思います」
「いや、ていうか……男同士じゃんか、まず」
「そういう問題じゃないです!!黒坂先輩は……『若いうちは何しても許される』って言ってました!!」
そんなわけないだろ!!
「夏樹……黒坂先輩の言うことあんま鵜呑みにしない方がいいよ」
「でも、チカラさんは東郷先輩のそばにいた方が幸せだと思います」
うーん……ダメだ。
俺やっぱ夏樹に弱いよ。
『会いに行こうかな』って考えてるよ。
かなり傾いてるよ。
「じゃ……じゃあ、今日電話してみようかな…」
「チカラさん!!」
「別にたいした用はないけどね!!あ、謝ってもらってないし…」
なんか、俺がすごい素直じゃない子供みたいだ…
だけど、夏樹が『憧れ』って言ってくれるとは思わなかった。
俺たちってそんな立派なもんだったか?
『東郷先輩は俺をすごく大事にしてる』とか。
まぁ、東郷先輩には何回も助けてもらったけど。
映画館デートの尾行付き合ってもらったし……
手料理振る舞ってもらったことも……あるけど……でも、そんな、たいした、ことじゃないし!!
はぁ……とにかく、帰ったら電話だ。
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