メイクビリーブ
...☆
しばらくすると、東郷先輩はぴくりとも動かなくなった。
「スッキリしたわー、ありがとう。おい、引き上げるぞ」
そう言って最低レベルの不良3人組はドアを開けて出ていった。
ドアが閉まる音と共に、俺たち4人に沈黙が訪れた。
前には傷だらけの東郷先輩。向こうであぐらをかいていた黒坂先輩が、ようやく立ち上がった。
「リュウ、大丈夫か?」
黒坂先輩は真っ先に東郷先輩の元に駆け寄った。
「あー……いって…」
良かった…
東郷先輩の声だ。
……ヤバい。俺、泣きそう。
だって東郷先輩が無事ってわかって、すごくホッとした…
東郷先輩はゆっくり起き上がると、ようやく俺の方を見た。
ダメだ……やっぱり昨日の今日じゃ気まずい。それに今、見られたら泣いてるのがバレる。
「……中谷…」
「と、東郷先輩……何か俺に言うことがあるんじゃないですか?」
泣いてるのがバレないように、咄嗟に悪態をついてしまった。
本当は大丈夫ですかって言って、ありがとうございますって言って、抱きしめてあげたいのに。
「昨日のことだって、今も……東郷先輩のせいで、俺と夏樹はこんな目に遭ってるんですよ」
東郷先輩、泣きそうな顔してる。早く『ごめん』って言って、この縄をほどいて。
そしたら、全部許すから。
ところが、東郷先輩から思いもよらない返事が返ってきた。
「そうだよな……もう、終わりにしてやるよ」
「え?」
「恋人ごっこは終わりにしてやるって言ってんだよ」
……恋人ごっこ?
何が?俺たちの関係?
恋人ごっこだったのか?
今まで全部……?
「中谷……ありがとな。今まで、付き合ってくれて…」
東郷先輩は立ち上がってボロボロの制服を手で払うと、そのまま建物の外へ出ていった。
「リュウ!!……ほ、ほどいてやれよ…」
黒坂先輩が戸惑いつつもやっと俺たちの縄をほどいてくれた。
「おうち帰れる?俺リュウを追わなきゃ」
「黒坂先輩、俺…」
「中谷は悪くないよ。ていうか今回に関しては俺もよくわかんない」
黒坂先輩はあわてて東郷先輩を追っていった。
「チカラさん…」
夏樹が心配そうに声をかけた。
事態が飲み込めない。
『恋人ごっこは終わりにしてやるって言ってんだよ』
『条件は俺と付き合うことだ。お友達助けてほしいか?』
そうなんだけど、俺たちはそうやって始まったおかしい関係だったけど…
『一生俺だけ見てろ』
そう言ったじゃん。
ぼーっとしていると、夏樹がまた口を開いた。
「チカラさん……泣かないで下さい」
あ、俺泣いてるのか。
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