メイクビリーブ
おまけ
「感動しちゃいましたよねーっ」
そう言って桜ちゃんがハンカチで目を押さえる。
俺が見るかぎり、泣いてないけど。
可愛くて良い子だけど、ちょっといやらしい感じもあるよな。
計算で生きてるなら正直にそう言ってくれたら良いのに。それを隠そうとする女が、俺はどうも苦手。
夏樹くんもこの子のどこがいいのかな…
「そういえば、後ろに男の子2人組いましたよね!!男子2人で恋愛映画って、ちょっと引きませんかぁ?」
ウケる。リュウ、中谷、お前ら引かれてるぞ。
「あーカップルなのかもねぇ。ちょっと珍しいね」
俺がそう言ってやると、桜ちゃんは大袈裟に驚いた。
「えーありえない!!やだ〜そういうの無理です〜」
あっそ。
桜ちゃんなりのピュアアピールのつもりなのかもしんないけど、俺のテンションはガタ落ち。
桜ちゃんの言うことは最もだし、反論しようなんて思わない。だけど、その言葉に傷つく人もいるんだけどな…
あ、俺は傷つかない人。自由に適当に生きてるからね!!
さて、腹痛いふりして夏樹くんと桜ちゃんを2人きりにでもしてあげようかな……なんて考えていると、急に怒声が聞こえた。
「そんな言い方…あんまりじゃないですか!?」
夏樹くんだった。桜ちゃんは呆然と夏樹くんを見つめている。
「確かに同性同士で恋愛っていうのは、嫌悪されがちですけど……本人たちはちゃんと、本気で恋愛してるんです!!
それなのに……失礼じゃないですか!!」
これはもしかして……リュウと中谷のことを言ってるのかな?
……夏樹くん、桜ちゃんに嫌われちゃうぞ。そんなに友達の恋愛侮辱されたの嫌だったのか?
「な……何いきなり?昴さん、助けてくださぁい」
必死に叫ぶ夏樹くんを見て、俺の心のモヤモヤが代わりに消えていった。
夏樹くん、本当に良い奴だ。
「俺も夏樹くんの意見に賛成。あんたみたいな女と付き合うくらいなら、俺は夏樹くんと付き合いたいね」
適当に言うと桜ちゃんは信じられないという顔をしたので、追い討ちをかける。
「俺も男の子大好き。女の子はもっと好きだけど、あんたみたいな女は嫌い。さようなら」
そう言って夏樹くんの手を引いて踵を返した。
「黒坂先輩……すみません…」
歩きながら夏樹くんが呟いた。
「え、何が?」
「僕のせいで、あんなこと言われて……黒坂先輩も東郷先輩も、自由に恋愛してるだけなのに…」
あ、俺も庇ってくれてたんだ。
「いやー正直気にしてないけど……まぁでも嬉しかったよ、夏樹くんがああ言ってくれて」
そう言うと夏樹くんは安心したように微笑んだ。
「ところでどうして来た道を戻っているのですか?」
「迎えに行こうよ。男2人で恋愛映画観にきたバカ共を」
「……え?」
気付いてなかったのか。夏樹くん、中谷の鈍感がうつってきたんじゃない?
トイレの前でキョロキョロする2人組を見て、夏樹が苦笑いをした。
[*前へ]
[戻る]
無料HPエムペ!