メイクビリーブ
☆
日曜日、駅前。
「中谷……逆に怪しいぞ」
朝、家まで迎えに来てくれた東郷先輩と夏樹の姿を探していた。
尾行なんて初めてだから、どうしてもキョロキョロしてしまう…
「あっ夏樹!!」
人混みの中にやっと見つけた夏樹の隣には、見知らぬ女の子が立っていた。あれが桜ちゃんか…
茶髪でくるんとしたボブ。花柄のワンピースが女の子っぽくて…
「結構かわいいですね」
「なんだと!?」
思わず感想を呟くと、東郷先輩に睨まれた。
あぁあ、俺もかわいい恋人がほしかったなぁ…
しばらくすると見覚えある黒髪が2人に近付いてきた。
「あ、黒坂先輩も来ましたよ」
夏樹と桜ちゃんが頭を下げている。
「黒坂先輩、私服オシャレですね」
「中谷!!俺以外の人間を褒めるな!!」
無茶言うな…
遠くから見た限り、3人はとても楽しそうに喋っている。
いや……厳密に言うと夏樹は無理してる感じかも。やっぱり気を遣ってるのかな…
「夏樹……本当にお人好しですよね。早く帰りたいだろうに」
映画館に向かう3人を追いながら呟くと、東郷先輩から意外な返事。
「いや……そこは微妙なとこだろ」
「え?なんでですか」
「転校生、あの女が気になってんだろ?」
……えっ!?
「なんでそんなことが…」
「見た感じ」
信じられない……けど、そう考えたら夏樹があんなに悩んでた理由もつじつま合うよな…
「昴もそれに気付いてるからあんなこと言ったんだろ」
黒坂先輩……だから『紹介して』とか『夏樹くんも映画くらい一緒に』とか言ってたのか。
「それにしても、夏樹がかわいそうだ…」
今どんな思いで2人を見ているんだろう。
「まぁ……昴の考えてることなんか全部くだらねぇんだから、もうしょうがねぇよ」
東郷先輩が俺の頭を撫でる。
「つーかよ……お前、本当に鈍感だよな」
「そうですか?」
まぁ確かに夏樹の気持ちには気付けなかったけど……俺は結構鋭い方だと思うな!!
3人は、今はやりのラブストーリーを見るらしい。俺たちも追ってその映画のチケットを買った。
ちゃんと自分で買うつもりだったのに『首、噛むぞ』と脅されて東郷先輩におごってもらった。
くそ、借りを作っちゃったな…
「あ、夏樹たち前の方にいますよっ」
東郷先輩は全く興味がなさそうだ。
かと言って映画もどうでも良さそう。
なんで来たんだ、この人…
映画館はがら空きだったけど、尾行中の俺たちは1番後ろの席に座った。
「夏樹、大丈夫かなぁ…」
かと言って映画も気になる。
この主演女優、かわいくて好きだし…
なんて言ったら東郷先輩に殴られるか。
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