メイクビリーブ
..☆
「あの……結局今日はどうして休んだんですか?」
東郷先輩はテレビの向かいにあるソファにもたれて座ったから、俺はその間にあるローテーブルの近くに腰掛けた。
布団はないから、もう一部屋が寝室なんだろう。
東郷先輩は苦虫を噛み潰したような顔をして、ゆっくりと……上の服を脱いだ。
「東郷先輩っ!?」
なんだよ急に!?
やっぱり『変なことしない』って嘘だったの!?
くそ、人には約束破んなとか言っといて…
「これ、見られたくなかったから…」
は?何?と思って東郷先輩の体を見ると……右肩が腫れてる。
「……大丈夫ですか!?どうしてこんなっ…」
「昨日の夜、後ろからバットで、どーんと」
どーんじゃないだろ!!
赤くなってるし、少しかさぶたもある。
「これ、病院行った方が…」
「昨日の夜冷やしたから……もうじき治る」
そう言って冷静にふるまう東郷先輩。
「見られたくなかったっていうのは…?」
「制服じゃバレるし……俺が不覚をとられたなんて、知られたくないから」
昴はその時一緒にいたから、今日休んだ理由は感付いてると思うけど……と付け足した。
やっぱり黒坂先輩騙したんだな…
「俺には知られてもいいんですか?」
「まぁ、風邪って思われるくらいなら。それに……お前は恋人だし」
また恥ずかしいセリフを堂々と…
こっちが照れるじゃんか。
「本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ……返り討ちにしてやった」
だから怖いって…
ていうか、
「じゃあ、早めに服着て下さい…」
そのたくましい胸板が目に入る度、先週帰り道でされた事が思い出される。
俺が顔を背けていると、東郷先輩が無言で俺に近づいてきた。
すぐに野生の勘が危険を察知する。
「へ、変なことはしないんですよね!?」
そう言うと、東郷先輩は舌打ちをしておとなしく服を着た。
怖い。いろんな意味で東郷リュウが怖すぎる…
「……こっち向けよ」
いまだに顔を背けている俺に、東郷先輩が怒って言った。
「な、なんでですか?」
それに意味わかんない質問で返す俺。
対する東郷先輩の返事は驚くべきものだった。
「……3日連続でお前の顔が見られないって落ち込んでる時に、お前が来たから」
だから、顔見せろ…
そう言って俺の肩に手を乗せる東郷先輩。
やばい。心臓爆発する。
本当になんなんだこの人。
俺の顔見てもいいことなんかないのに。
土日、少しでも俺のこと考えてくれてたんだろうか…
聞きたいけど、聞けない。
俺みたいな凡人にとって、自意識過剰ほど恥ずかしいものはないんだ。
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