メイクビリーブ
...☆
「チカラさん!!お昼食べましょう」
夏樹は言った通り今日もお弁当だった。
「あ、うんあの……屋上行かない?東郷先輩と黒坂先輩も、いるから」
「わぁ!!僕なんかがお邪魔していいのでしょうか!?」
「もちろん…」
ていうか、来てくれないと俺が困る…
屋上の扉を開けた瞬間、俺は肩を跳ねさせた。
扉のすぐ横で東郷先輩が壁にもたれていたからだ。
「東郷先輩……なんでここに?」
「お前が本当に来てくれるか、心配だったから…」
そう言って屋上の真ん中に進んでいった。
いやいや、そりゃ来るだろ。
後から2人の元へ向かうと
「よく来たね〜」
と手を振る黒坂先輩と俺をじっと見つめる東郷先輩。
なんか……東郷先輩のイジメって徹底してるよな…
先輩たちは購買のパンだった。黒坂先輩が毎日自分と東郷先輩の分を買ってるらしい。
「まさか、黒坂先輩も脅されて?」
「『も』って何だよ」
東郷先輩に睨まれて、俺は慌ててごまかした。
黒坂先輩が笑って言った。
「脅されてるわけじゃないけど……なんでだろうね?
まぁギブアンドテイクっていうか、俺も報酬を頂いてるから」
「報酬ってなんですか?」
夏樹が尋ねる。
「『安全』。リュウの隣にいるから誰もふっかけて来ないけど、俺ケンカとかできないんだよね。最低限の防御しかできない」
初耳だった。
東郷先輩の友達だから、もちろん強いんだと思い込んでいたけど。
黒坂先輩がそんなカミングアウトをしたのを皮切りに、俺たちは意外に途切れることなく雑談をした。
初めて知ったことがたくさんあった。
夏樹は従兄弟が昔ここに通っていたと聞いて、今の荒れた校風を知らずこの学校に転入してしまったこと。
黒坂先輩は『黒』がつくから黒髪を貫いていること。
東郷先輩は……俺が何か聞くと毎回一拍置いて答えた。
喧嘩が強い理由は『頑張ったから』。
黒坂先輩と仲良くなったきっかけは『良い奴っぽかったから』。
いまだによくわからない人だよなぁ。
「わぁ!!東郷先輩、煙草をお吸いになるんですね!!」
夏樹が目を輝かせた。
見るとパンと緑茶を胃に収めた東郷先輩が煙草に火を付けている。
様になるなぁ。伏し目がすっげぇ色気ある。
あ、俺タバコの煙に弱いんだ。
気をつけなきゃ…と思った瞬間、咳が出た。
「チカラさん、風邪ですか?」
「リュウにあっためてもらえば?」
まだ早いかー、なんて楽しそうな黒坂先輩。
何の話をしてるんだろうか…
「煙……苦手か?」
だけど東郷先輩だけには本当のことを見抜かれていて、ドキッとした。
「ちょっとだけ……でも、大丈夫です。今のはそんなんじゃないです」
「……あっそ」
そう言いながら、東郷先輩は煙草を地面にもみ消した。
……おぉ、なんか、キュンときたかもよ。
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