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「奈佳ちゃん!はよ行かな全部売り切れてまうで!?」

「えっ、あ、うん」

朝から雨が降り、アイドルな白石くんと相合い傘。
朝からついてないなぁ、と思っていたけど、担任の先生は遅れた事は全然気にしてないみたいだし、白石くんの言ってた通り みんなと仲良くなることができた。

「よっしゃー!突撃や!」

「えっ!突っ込むの!?」

無理無理!無理だよ!
いけるかも、なんて希望が見えないくらいの人だかりが出来ていて、いやこれもう絶対買えないと思う。
それでも萌ちゃん(友だち1号)は突っ込んで行ってしまった。

ぐぅうう

「は、恥ずかしい…」

突っ込んでいく勇気がなくても、お腹はどんどん空いていくわけで、盛大にわたしのお腹はなった。
周りの人たちは自分の昼食確保に夢中で聞こえてはいないらしい。

「姉ちゃん腹減ってんの?」

「え?」

大騒ぎな人集りから少し離れた場所にいるのはわたしだけで、お腹を盛大に鳴らしたのもわたし。
きっとわたしにかけられている言葉なんだと思うんだけれど、いかんせんお腹の音を聞かれていたこともあって相当振り返りたくない。
今すぐダッシュで逃げ出したいです(教室までの道覚えてないから出来ないんだけどね!)

「なあなあ無視せんといてやー!姉ちゃん腹減ってのやろ?はよ行かな無くなってまうで?」

くるっ、とわたしの前に回り込んで視界の中に入ってきた子。
赤い髪で、Yシャツの下からはヒョウ柄が見え隠れしている。

いやいや行きたいんだけどね、と言う間もなく手を引かれる。
いやいやいや、あの中に突っ込んでいく勇気があれば初日から友だちいっぱい作ってるよ!無理矢理はよくないよ!?

「い、いやわたしはいいよ。君は買いに行かないの?」

そう聞いた瞬間、いままで元気いっぱいだった子が急にしゅん となってしまった。
え、いや 心なしか犬のしっぽが見える!

「わい、わい買おう思っててんけど あと1円足りひんねん」

「そ、そうなんだ」

わー あと1円って。
見えかけていた犬のしっぽが今は確実に見えていて、思わず言葉を発していた。

「じゃあこれ、あげる。」

「え?」

犬っ子(名前分からないからね!)の手に100円玉を置いてあげる。
だってなんかこの子可愛いし、後輩っぽいし、後輩第1号記念ってことにならないかなあ?

「うん、これで足りるよね?」

「ホンマ?ホンマにええのん?!」

「うん、記念だからねー。あ、そうだ、1つだけ頼んでもいい?」

「なんの記念なん? 姉ちゃん優しいからわいなんでもやったるわー」

頼みたいこと、それはあの人集りの中に突っ込んで行くらしい犬っ子にわたしの分も買ってきて貰おうかなあ、と。
だってこの子随分パワフルな性格だし 小さいのに力強いし。なんかいけそうな気がするんだよね

「わたしの分のパンも買ってきてくれない?」

「ええでー!待っといてな、美味しいの買ってくるわー!」

「ありがとう」

そういって犬っ子に500円を渡した。
犬っ子はそれは凄い勢いで人集りの中に突っ込んで行って、欲しいパンをゲットしようと奮闘中みたいだった。

「姉ちゃーん!買ってきたでー!これ、わいのおすすめ!」

そう言って差し出してくれたパンは美味しそうなパンだった。
パンと、おつりを受けとる。
購買のパンは意外と安いやしく、犬っ子は1個100円やで、安いやろ?と言っていた。
そして、おつりをみる限り本当に1円だけ足りなかったらしい。

「ありがとう!」

「こっちこそやで!明日ちゃんと返しにくるから!」

1円くらいいいよ、と返事する間もなく犬っ子は走り去って行った。
うーん、ホントにパワフルだ。…名前も聞けなかったし。

「奈佳ちゃーん!やったでー、うちは勝利した!奈佳ちゃんは?」

それからすぐに、萌ちゃんが戻ってきて買いたかったパンを買えたらしかった

「あ、うん。ちょっと人に頼んで一緒に買ってきてもらったんだ」

「そうなん?ってそれ!1日5個しか作らん限定物やで!?」

「そうなの?!」

思っていた以上にあの犬っ子はすばらしい働きをしてくれていたらしい。
なんとなく 得した気分で、教室に戻った。


明日は お礼と、名前を聞こう。




購買にて あと一円足りないと嘆く後輩に遭遇。可哀想なので一円寄付する。



(うん、いいことしたかも)
(名前聞いてもいい?)(わい、遠山金太郎いうねん!)



あきゅろす。
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