隣の切原くん
ガタン
今日も、隣に人の座る気配がする。
"切原赤也" それが隣人の名前。
話したことはない。話しかけることはないし話しかけられたこともない。
「おーっス赤也」
「お―!はよ」
切原君の隣は苦手。人が沢山集まってくるから。
極度の人見知りであるあたしを神様はどうして彼の隣にしたのか
「あ、今日中谷休みかよ!」
英語頼りにしてたのに―!今日当てられなきゃいーな、
彼はそう呟いて椅子に座った。
切原君は英語が大の苦手だ。こないだはcomeをコメって普通に読んでいた(笑いを堪えるのに大変だった)
「(話してみたいなぁ)」
彼が嫌いな訳ではないのだ。
ただ人と話すのが苦手なだけ、で。
実際彼はテニスは凄いと聞くし明るくてとてもいい人だ。
あたしから話しかけてもきっと話に乗ってくれるだろう。
「(中谷君いないのかあ…。英語の時間大変だなぁ)」
中谷君とは、切原君のもう片方の隣の隣人だ。
気さくで頭のいい、あたしにも気軽に話しかけてくれる心優しい人。
英語の先生は切原君が英語を苦手なのを知っていて毎回当てる鬼のような人だ(あの人に目をつけられたら英語を心底嫌いになる)
今日はきっと笑いを堪えるのに大変な日だ。
「(今日はいい天気だなあ)」
いつもの切原君なら寝てる。
でも今日は寝ていない。
なにか考えこんでるみたいだ。(あ、英語の教科書)
どうやら中谷君の存在が欠けたことは切原君にとって大変な事実みたいだ。
いつもは開くことない教科書とにらめっこをしている。
「(頑張ってる…)」
だらだらと汗を流しているけど。いつもテニスをしていてもかいていない程の汗を流してる。
…余程分かんないんだろうなあ。
「あ―!もう!」
10分程教科書とにらめっこしていた切原君は諦めたように教科書を閉じた。(…ダメだったんだな)
こういう時、あたしに勇気があったら、あたしが人見知りじゃ無かったら、切原君に話しかけて教えられるのに。(せっかく英語だけは得意なのに)
「あ!」
何かを思い付いたみたいに顔を輝かせる切原君。
…あれ、なんかこっち見てない?
「会沢!確か英語得意だったよな!?」
「え。ぇっと、ぅん。」
あ、あたし切原君に手握られてる。
切原君と、話してる。
初めて交わした言葉はあまりにも簡単だった。
どうしようもないほど日常的な会話。
…どうしよう、嬉しい。
(よかった―!な―英語教えてくんねぇ?)(う、うん)
君の一言から始まる恋。
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