隣の幸村くん
「「あ」」
ザワザワ
席替えというのは、いくつになっても心が踊るわけで。
喜びに顔を綻ばせる人もいれば、落胆して沈ませる人もいる。
あたしは、どっちだろう。
「幸村、何番だった?」
「奈佳は?」
「じゃあ同時に見せよ」
「「いっせーの―で!」」
担任の佐原がいきなり席替えをすると言い出した。(英語担当の鬼のような人間だ)
席替えの理由は"飽きたから"らしい。(なんでも英語が大の苦手だった生徒が最近出来てきてつまらないって噂だ)
「「あ」」
そして隣同士だった幸村とクジの見せあいをしているわけだ。
あたし7番、幸村15番
「げえ幸村一番前じゃん。あたし一番後ろ―」
「離れちゃったな」
「まあクジだししょうがないって」
二回連続で隣だったあたし達はちょっと期待してた訳だけど
三回目は無かったみたいだ。
「目悪いだろ?前おいでよ」
「やだよ一番前なんて」
「俺が隣じゃなくても奈佳はいいんだ?」
「はあ?」
たとえ目が悪くても一番前には行きたくない。一番前に行けば鬼の担任の餌食になる可能性大だからだ。(例えば毎時間当てられる、とか)
「俺は奈佳の隣が良かったんだけど」
「なに女みたいこと言ってんの!?」
見た目同様可憐になっちゃったのか?!(普段の幸村は見た目に反して男らしいというか強引というか)
こんなこと言うキャラじゃない。
「ひどいな、」
「は!?」
「おーいうるせえぞ―。そんなに幸村の隣じゃなくて悲しいのか、そーかそーか」
「そんなこと言ってないし!」
ヒマそうにしていた担任が近寄ってくる。
変なことを口走りながら。
これは嫌な予感がする。
隣にいる幸村は至極楽しそうに笑っているし担任は悪戯を思い付いた子供のようにニヤニヤしている。
「そんな会沢には心優しい俺がお前を一番前という素晴らしい特権をやろう」
「はあ!?」
「ありがとうございます、先生。」
「なに言ってんの幸村!」
せっかく一番後ろの端というポイントをゲットしたあたしをわざわざ一番前の席にするなんて!
全然ありがたくないし嬉しくもない。
「早く移動しろよ―」
「ほら、早くしないと周りが迷惑してるだろ?」
なんだろう、このあたしが悪い雰囲気。
せっかくの一番後ろが、一番前になって、なんであたしが悪くなってるんでしょう。
「良かったよ、また奈佳が隣で」
(今日のお昼代で許してやろう)
その一言が、嬉しいなんて
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