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84話†本当に伝えたいことが、伝わらないなんて










「何で二人が、一緒にいるんだよ……」


やがてメンバーは二人の前と一定の距離を置いて立ち止まった。
一番に口を開いたのは向日。
その疑問は、きっと全員が思っていることだ。


「………澪先輩、」


心配そうな顔をして、誰にも気付かれないように呟いた日吉。
隣にいた跡部も同じような顔で澪を見つめている。


「……っまさか自分、また恵理を虐めて、」


忍足が憎しみのこもった眼差しを澪に向ける。
もちろん澪は無表情のままだ。
その表情で、跡部と日吉は澪が今は麻央だと分かったようだ。
別として、澪が悪くないと分かっている人物は宍戸と鳳。
その4人以外は、澪を恨めしそうに見ている。
そして、青木は泣きそうな顔をメンバーたちに見せた。


「っ!どこまで卑怯なやっちゃ自分……まだ、恵理に何かせなあかんのか!」


その表情を見て目の色を変えた忍足が、声のトーンを低くして澪を睨みつける。
より、本気だということが感じられた。
だが澪は何も反応しない。


「……そ、そうだぜ!もうこんなことやめろよ!」


それに便乗して向日が叫ぶ。
事は大きくなるばかりだ。


「用があるっちゅー話やけど、俺らには関係あらへんわ。自分の話なんか、誰も聞かへんのや!」


忍足が澪に近寄る。
澪は何も言わず、俯いて自分の腕を抱くような仕草をとった。


「……っおい、やめ…!」


危険だと察知した宍戸が止めようとする。
だがそれより前に忍足を止めたのは、


「っもうやめて、侑士……!」


青木だ。
震えた声で忍足に抱きつき、


「っもう……許して…」


そう、小さく呟いた。
その言動に澪意外は目を丸くする。
青木の言葉の意味が、理解できない様子だった。


「っ…恵理…?恵理は、こいつを許すんか…!?」

いつもは冷静な忍足が、少し興奮気味に青木の小さな肩を掴み言う。
その言葉に、青木は首を振った。


「ち、違うの…………………わたしなの……」
「?なにが……」


本当はこんなこと言いたくない。
だけど言わないといけない。
背中で感じるのは一人の鋭い視線。
その堕天使から逃れるために―――――


「私が澪ちゃんを虐めていたの……」


いやな静寂の中、青木の声はよく響いた。
そしていとも簡単に忍足の次の言葉を奪っていった。
青木を励まそうとした言葉。
それは発せられることはなかった。
俯いている澪が、口元を歪めた。


「な……にを言うてん……。恵理、自分が何を言うてるのか……」
「わ、かってるよ……」


小さな声で言った。


「私が全部悪かったの……。澪ちゃんは、悪くない……!」


忍足の背後では、跡部と日吉が意外な言葉に澪の姿をじっと見つめていた。
それ以外は青木を心配そうに見ている。
そして、


「嘘でしょ」


芥川が、静かに……青木に言った。
今度は澪以外、視線が芥川に集まった。


「恵理、脅されてるんでしょ?」


芥川は青木に近寄り、少し優しげに囁いた。
青木は涙を溜めている目を芥川へと向ける。


「だって……そうとしか考えられないよ。恵理は優しいから…ね、そうなんでしょ…?」


呟いた。
その言葉に青木は頷くことができず、目を逸らした。


「………そ、そうだぜ…。恵理が虐めなんてするわけねえよ!」


向日が叫ぶ。
そして頭を振って、澪を睨んだ。
澪は俯いている。


「が、岳人………っちがうの!」


庇われている青木も、この状態ではまずいと思い声を荒げた。
そんな青木を向日は驚いて見た。


「ほ、本当なの…!今までのこと全部、私がやったことで……っ」


勢いで青木の目から涙が落ち、頬を伝った。
偽りのない青木の涙。
テニス部レギュラーたちの前で初めて見せた、本物の涙。


「………恵理、」


だが、


「泣かんでええ。脅されてるんやろ?」
「―――――――っ!!」


自分が今まで創り上げた信頼≠ェ、今邪魔をする。
青木の中に焦りが生まれた。
このまま、皆が自分の事を信じてくれなかったら。
自分は本当に麻央に消されてしまうんじゃないかと。


「ちがうの………っ信じて、」


青木は弱い声で、忍足の腕をぎゅっと掴んだ。


「大丈夫や。恵理は、俺らが守るから……」
「そうだよ…だから泣かなくていいんだよ?」
「俺たちは信じてるから、なっ?」


青木を安心させるかのように、忍足、芥川、向日が囁いた。
青木は悲しげに瞳を曇らせ、どう言えばいいのか頭の中で必死に言葉を探した。
本当に伝えたいことが、伝わらないなんて。

一瞬の沈黙。
3人以外のメンバーはどうしたらいいのか分からず、ただ見ているだけだった。
青木と澪を交互に。
そうしているだけでは何も変わらないというのに。

そして、


「――――――――――――っくく、」


堕天使は、嗤った。

俯いていてその表情は見えなかったが。
確かに口元が歪んでいた。


「っふふふ………、っあははははは!!」


壊れたラジオが何度も何度も同じ音を出すかのように。
渇いた声が。
狂ったように。
わらいだした。


「……………………っ麻央、」


跡部の小さく弱い呟きは、
伝えたい本人に聞こえるはずもなく、
麻央の笑い声によってかき消された。














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