[通常モード] [URL送信]
68話†『………やっぱり、あんたなんて嫌いよ』










麻央side




宍戸が走り去り、誰の気配も感じなくなった時……
アタシは澪の中から出た。
ふと目を開けると、目の前には木に寄り添うように座っている澪。
意識はない。


『澪……少しだけ、待っててね』


そう言って、アタシは澪から離れ、校舎の中に入った。
……どうやら、今は授業後の休み時間みたい。
アタシはスッと、障害物も気にしないであるところに向かった。
そう、跡部の元へ―――――







廊下までくると、人込みの中に跡部が見えた。
……と言っても一人で行動しているみたい。
まぁ、クラスでも部活でも、澪を守る立場を明確にしているから……それは仕方のないことなんでしょうけど。
そんなことは気にせず、アタシは跡部の横へと近づいた。
そして静かに、


『―――――今すぐ屋上に来なさい』
「っ……!」


アタシの声は、ちゃんと跡部に届いたみたい。
他の生徒が次の授業へと急いでいる中、跡部は立ち止まり周りを見た。
でも、あなたにアタシの姿が見えることはないわ。


「ちっ…」


跡部は短く舌打ちをして、屋上へと向きを変えた。
そしてアタシも同じように向かう。
……この時間帯、屋上なら誰もいなくて静かに話すことができそうね。







「…麻央っ」


アタシが屋上に着いたすぐ後、跡部が難しそうな顔をして屋上に入ってきた。
きょろきょろと辺りを見渡してアタシを探している。
このまま声だけで意地悪するのも楽しいかなと思ったけど、今はそんなことをしている暇はない。


『ここよ、氷帝テニス部の部長さん』


跡部の真後ろで声をかければ、勢いよく振り返り跡部と目が合った。
姿は見えるようにしてある。
跡部はアタシの姿を見て少しほっとしたようだ。
アタシはその顔を見て、怒りを再び覚えた。
さっき、宍戸が言った言葉、あの瞳、態度……。
全部あなたの差し金なんでしょう?
結局は、部活の部員の方が大事なんでしょう?


「……いきなりどうした、なにか――――」


アタシは、跡部が言葉を言い終わる前に跡部に平手を打った。
……でもそれは、やっぱりすり抜けて。
跡部は目を丸くしただけだった。


『もしあんたに触れることができたなら……、何発でも殴ってやるのに、』


冷静に、でも……アタシの怒りは止まない。
歯痒い。
昨日の夜…澪の時にも感じた。
この、胸が締め付けられるような気持ち。
この手で、
この手で……皆に触れることができたら。


「麻央……?」
『そうでもしないとアタシの気が済まないわ。……本当は澪の体を借りてやってもいいんだけど、それだと澪が悲しむから…』


アタシは、ぐっと手を握る。
跡部に気付かれないように後ろで。
アタシのいきなりの様子に、跡部は異変を感じたのか、心配そうな顔をした。


「どうしたんだよ……何か、あったのか?」
『白々しいわね。人の邪魔をしておいて……そんなに、アタシが嫌い?』
「っ……俺には何の事だか、さっぱり…」
『そうやって最後まで白を切るといいわ。どう足掻いたって、アタシの邪魔はできないから』
「…………」


キッと跡部を睨めば、跡部は口を噤んだ。
……少しは利口になったんじゃない?
怒っているアタシに何を言っても無駄だって。


「澪のことか……?」
『それ以外に何かあるってわけ?』
「……麻央、お前は何をそんなに焦ってるんだ」
『………は?』
「澪の為だって言うなら、澪の気持ち通り、復讐なんてしなくていいじゃねえか」
『あんた、何言って……』
「それでも復讐をするって決意は、妹想いからか?それとも……自分の為か?」
『っ……!』


何を急に。
アタシの考えの中にズカズカと入ってくるような発言。
今の跡部……今までになく強気みたい。
その目は、やっぱり澪を想って言ってるのね。


『………やっぱり、あんたなんて嫌いよ』
「………」
『何も分かってない。何も……。あんたに、アタシたちの何が分かるって言うの?』
「………」
『アタシの気持ちの何を知ってるの?澪の何を知ってるの?』
「……今は分からない事があっても、いずれ…」
『いずれ?そのいずれはもう過ぎてしまったわよ。アタシが死んだから、あんたたちが澪を信じなかったから…』


そう言うと跡部は黙る。
もう、跡部と関わってはだめだと分かってる。
この人と関わっていくうちに……いえ、澪以外の人と関わっていくうちに、アタシは昔のアタシへと戻ってしまう。
あの頃の、弱くて醜いアタシに。
強がってばかりで、それなのに嫉妬深くて、頑固で、自分勝手で……。
澪に迷惑ばかりかけて……。


「だが……俺は、澪も麻央も大切だ」


大切……?


「二人とも、俺達の大事な仲間だ…。それは、今も昔も変わりはない」
『今も昔も?……今、その大事な人を傷つけ追い詰めているのは誰かしら』
「それでも…俺は、何よりも大事に思っている」
『………』


やめてよ。
そんな目で、今さらそんなこと言わないでよ……。


「俺は、今のお前の気持ちも…澪の気持ちも、受け止めるつもりだ」


もう遅いって分かってるはずなのに。
この人は……やっぱり嫌いだ。


『………それなら、』
「……?」

『そんなこと言うなら、昔のアタシの気持ちだって、気付いてくれててもよかったじゃない……』

「……!麻央、」
『もうこれ以上あんたに話すことはないわ。もう二度とあんたの前に現れないつもりだから』
「っ!おい、待てよ麻央っ!!」


跡部の言葉を無視して、アタシは姿を消した。
そして屋上からも離れた。
遠くから少し屋上を見ると、何もせず立ちつくしている跡部の姿が見えた。

そう、跡部とはきっと、これでさよならだ。
もう……全て明日で終わるんだから。













第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!