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51話†「好きだったんだね」










「ん………」


いつの間にか眠っていたみたいだった。
気がつくと、もう朝で。
昨日、あれからすぐ眠ってしまって大分時間が経った。
……頭が重い。
朝の日差しを受けながら、私は頭を押さえた。


『頭痛がするの?』
「ん……ちょっと、」
『辛いのなら無理しないで』
「大丈夫……皆に迷惑かけたくない……」


くらくらする意識を必死でしっかりさせる。
それでも身体のだるさは変わらない。


『澪、無理をするともっと身体に障るわよ?』
「でも……」
『姉の言うことは聞くものよ』


麻央が笑った気がした。
それと同時に、私の意識が完全に飛び、身体に力が入らなくなる。
またいつもの……。
麻央が私の意識に入りこんだんだ。
それは分かるのに。
いつもなら、私の精神は残るのに。
それまでも……麻央に取られてしまった。







麻央side




完全に澪が眠り、意識全てがアタシのものになる。
澪はだるそうにしていたけど、アタシは何も感じない。
だから、望み通り学校に行けるわよ?


「澪は何もしなくていいのよ。全部、アタシがやってあげるから……」


アタシは準備をしてすぐ家を出た。
家を出る頃の時間は9時だったから……もう遅刻ね。
どうせ教室に言っても澪を煙たがるだけだし……今日は良い天気だし、屋上でも行こうかしら。
そう決めて、私は誰も歩いていない通路を一人で歩いた。







跡部side




「(澪……今日は休みなのか?)」


教室で、ぽかんと空いている席をちらりと見やる跡部。
朝から和んだ空気が流れていると思ったが、澪が居ないからか……。
教室の所々から、


「とうとう登校拒否か?」
「これで安心できるね、青木さん」


という声が聞こえる。
それに怒りを覚えるが、俺が怒っても仕方がない。
本当なら俺も浮くはずなんだが……。
その気配は全くと言っていいほどない。
恵理から寄ってくることは無くなったが。


「………」


ふと窓の外を見ると、澪が来ているのが分かった。
とぼとぼと歩いている。
遅刻、だったのか………。
少しほっとして、俺は澪の姿が見えなくなったところで前を向いた。
だが、それから授業が終わる頃になっても澪は来なかった。


「……?サボりか?」


澪の事だから、入りづらくなったというもの分かる。
だとしたら、澪の行くところは屋上……か。


「景吾、どこに行くの?」
「………」


席を立って教室を出ようとすると、恵理に声をかけられた。


「別に、関係ねえ」
「……景吾…」


恵理は俯いた。
俺は何も言わなくなった恵理から目を逸らして、行こうとすると、


「澪ちゃんのところに行くの?」
「………」


図星をついてきた。
恵理は悲劇のヒロインを気取っているのか、悲しそうな表情で俺を見上げた。


「澪ちゃんは、私を虐めてるんだよ?」
「俺はこの目で見てないものを信じねえ」
「……景吾、澪ちゃんのことが好きだったんだね」


少し嫌味にも聞こえたが、俺はその言葉が過去形だというのにカチンときた。


「今もこれからも、俺は澪が好きだ」


そうはっきりと言うと、流石の恵理も目を丸くして俺を凝視した。
もう俺が恵理に言いたい事はない。
少し早歩きで、そこから立ち去った。







「……澪」


屋上のドアを開けると、どこか遠くを眺めている澪が居た。
こっちに気付かせる為に、名前を呼びながら近づいた。


「跡部……」
「……麻央か」
「そうよ。悪い?」
「いや」


相変わらずな態度の麻央。
俺は麻央に嫌われているんじゃないか……いや、実際そうなのかもしれないな。
麻央は復讐を止める気はないみたいだしな。


「朝からサボりか?」
「だから、悪いの?……今日は、澪の体調が悪いからアタシが澪を動かしてるのよ」


投げやりにそう言い、俺から目を逸らした。


「体調が悪いだと?」
「ええ。だから、澪に負担が掛からないようにアタシが、」
「体調が悪いんなら何で休ませないんだよ」
「………」


澪の事を思うんなら、休ませるのが普通だろ。
いくら辛い思いをしないからって、体には負担がかかる。


「澪が、あんたらに迷惑かけたくないんだって」
「……迷惑?」
「休むことで、仕事をサボってるって思われたくないんでしょ?こんな、時間もないこの時期に」


……確かに、澪にとっては今は時間が必要なのかもしれない。
テニス部の事も。
麻央の事も。
きっと他にもある。


「それに、アタシにも時間がない……」


珍しく寂しそうな表情を浮かべ、呟いた。

その後、授業は受けないのかと聞くと、受けないと答えた。
部活には澪を送る、とだけ言って、それ以上何も話さない麻央に、俺も何も言うことができなかった。













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