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43話†憎しみしか出てこない










忍足side




跡部が戻ってきて、すぐに練習が始まった。
コートに来るなり少し俺を睨んだ跡部。
やけど、俺が視線を向ける頃にはそっぽを向いていて。
あの跡部を動揺させているのだと思った。

そして、マネージャーである恵理が仕事の為に部室へ戻ろうとした時、それを聞いた。


「あ、あのね、侑士……」
「何や?一人で戻るの不安なんか?」
「……違うの。少し、聞きたいことがあって」


その時の恵理は、少し聞くのを躊躇っているような、そんな感情が見られた。
俺は優しく声をかけ、恵理は上目で見ながら俺に言った。


「……澪ちゃんに、お姉さんが居るって、本当……?」


一瞬びっくりした。
何で恵理がそのことを知ってるんや、って。
あの時の事を、俺らはどこかで忘れようとしていた。
忘れたいと願って、それでも忘れることなんかできるわけもなくて。

あの時の光景は今でも覚えてる。
真っ赤なコンクリートの上で、横たわってる姿。
十数メートル離れた屋上から見ても、それは誰だか判った。
綺麗な茶色の髪。
氷帝の制服じゃなく、病院でよく見かけるパジャマが赤く、赤く染まって―――





「やだぁっ!麻央、麻央ーーーっ!!」





俺達の仲間が自分からこの世を去った日。


「……し、侑士…?」
「えっ、あ……あぁ、すまん…」
「……で、居るんだよね……」
「………」


俺は頷いた。
それを見る恵理は、哀しそうに俯いた。


「恵理……何で急に、そんな事を?」
「……この前ね、澪ちゃんにね、言われたの」
「………」
「私が、もうこんなこと止めよう?私も辛いの、って澪ちゃんに言った時……」


次の恵理の言葉に、俺は耳を疑わずにいられんかった。


「『だったら死ねばいいじゃない。私の姉のように、屋上から飛び降りて』って……」


俺は、澪も、麻央も好きやった。
恋愛感情とまではいってへんと思うけど、大切やった。
あの頃は幸せやった。

でも、この恵理の言葉で、
その幸せは一瞬にして偽りへと化した。


「こんなこと、侑士たちに言っちゃいけないと思うけど……でも、亡くなったお姉さんの事を考えると……」
「恵理……他にあいつは、何か言っとったか?」
「………『あと少しの命だからって、飛び降りなんてばからしい』…」


俺は拳を握った。
澪は、麻央の回復を願っとったんやないのか?
あの時、悲しみに任せて屋上で泣き続けたのは何やったんや?

虐めのことがなかったら、俺は澪が言ってないと言えたと思う。
でも、今の澪は信じられん。
恵理を傷つける奴や。
麻央のことかて、平気で悪く言うような奴にまで成り下がったんか?


「……あの、侑士…」
「悪いな、恵理。ちょっと一人にさせてくれへん?」
「……あ…うん……」


そして俺は、一人で頭ん中整理するために、人気のない校舎裏へと向かった。
そして、一番会いたない奴に会った。
今の澪を見たら、憎しみしか出てこない。
感情に任せて壁へと押しつけて。
最低だと罵って。
それが何になることもない。
ただ、自分の憂さ晴らしかもしれない。
とにかく、澪を敵やと判断した。

仲間の悪口言う奴は、仲間なんかやない。
俺の仲間を裏切る奴は、二度と許さない。
それが例え、澪だろうと。

許しは、しない―――








恵理side




侑士に告げた後の侑士の後ろ姿を
私は喜んで見送った。
本当……私以外何も見えていない騎士。

全て反対なのに。
私があいつに言ったことを言っただけ。
そしてあいつは、そんな私の言葉を否定し続けただけ。
でもね、澪ちゃん。
私を殴った代償よ。
お姫様を殴っちゃ、だめでしょう?
可哀想なピエロ。
貴女の人生も、いつ終わるか不思議じゃないくらいね。
私に散々利用されて。
利用されたら捨てられて。

そして私は、取り戻す。
幼き頃の、皆の中心を――――!













あきゅろす。
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