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41話†そう思ってしまったのは、どうして?










今はもう10時を過ぎてしまった。
午後の時間を合わせると、練習時間はあと6時間ほどある。
それまで、私に何をしてろって言うの?


「ふぅ〜、全部のことを知ってると色々と疲れるわぁ」


侑士との会話から戻ってきた恵理ちゃんは、勿論外の笑顔は全くなくて。
むしろその表情は怖くて。
人の笑顔が信じられないって、きっとこの事を言うんだろうな。


「で……あぁ、ドリンクは作ったのね。ごくろーさんっ。適当になったら運びに行くから、あんたは今のうちに掃除でもしてたら?」


何時も通りソファに座り、足を組んで、私に命令する恵理ちゃん。


『完全に調子に乗ってるわね……。まぁ、そういう時こそ最高と言っていいほどの絶望の表情をくれるわ』


耳元で笑い声にも似た声音が聞こえる。
今は慎重に動かないと。
もし、恵理ちゃんが麻央のことについて触れたら、麻央はきっと驚いて。
もし、恵理ちゃんが麻央について侮辱的な言葉を発したら、麻央は怒る。

ああなんて、辛い役目なのだろう。


「そういえば、あの日吉って子……私のこと嫌ってるのかしら」
「!」


日吉、という名前に私は思わず反応する。
まさか恵理ちゃんの口から出てくるなんて。


「いくら今回初めて会ったからって……、挨拶をしても無視されるのは、やっぱり私よりあんたの事を信じてるのかしらね」


それでも余裕に告げる恵理ちゃん。
それもしょうがないことだけれど。
2年のわかより、3年の侑士や岳人の方が先輩として上に居る。
いくら2年に嫌われようが3年に好かれていては2年はどうすることもできない。
上下関係をよく分かっている。


「もしかして、あの日吉って子、あんたのこと好きなんじゃないの?」


そのどうでもよさそうに吐く言葉だが、私は身体が固まった。
そんなことあるわけないと思うのに、どうしてもそれが本当で、私にぬくもりをくれたらいいのにと考えてしまう。


『ふふ、この意見にはアタシも少し賛成よ、澪』
「………やめて」
『ああ、貴女にはもう決めた人が居たものね』


くすくすと笑って、また空気へと化す気配。
でも、恵理ちゃんは違った。


「あら?もしかして貴女、その気が?」


しつこく、絡みつく声で喋る恵理ちゃん。
違うよ。
わかは、悪が嫌いなだけ。
恵理ちゃんが原因だということに一番に気付いて、ただ私を守ってくれているだけ。


「………違う」
『それは澪の勝手な思い込み。日吉の気持ちなんて誰も判らないわ』
「っ………」


私は、わかのことは好きだよ。
でもそれは……恋じゃ、ない。
私が好きなのは……、


『跡部だって、アタシの復讐の的。傷ついた相手より、まだ傷つかない相手の方が面白いでしょう?』


麻央、貴女は何を言って―――


「まぁ、あんたが誰のこと好きだろうと私には関係ないけど。今のあんたは嫌われ者。だれだって好きになってくれないし、好きになったとしてもその相手の安否も保障できないものね?」
「……っるさい、!」


貴女に何が判るの?
私の気持ちを知ってるの?
私があの人のことを好きだって言う気持ちは軽くない。
中学で初めて同じクラスになった時から、片想いで………。

私は、気付いた時には部室から逃げるように出て行った。
恵理ちゃんから逃げたい。
と思うのは仕方ないことだけど。
……麻央から、逃れたい。
そう思ってしまったのは、どうして?







麻央side




「あーあ、掃除してって言ったのに」


澪が出て行ったあと、青木は溜息をついて腕を組んだ。
良い気になれるのも今のうちですものね。
最近、澪は傷つきやすい。
いつ青木の言葉が澪を爆発させるか分からない。
その度に澪の心の傷が増えて、深くなって、澪自身を切り刻んで。

そして、狂っていく。
アタシのように。
周りを責めて、自分の所為じゃないと嘆いて、自分が被害者だと主張して。
そして――――


「……それにしても、本当邪魔だなぁ…」


低い声で、呟く青木。
早く澪を消したくてしょうがないその気持ち。
アタシも同じよ。
早く貴女を突き落としたくてたまらない。
勿論テニス部員も。
結末は、誰もが幸福になんてなれない。
最後はアタシだけが知ってるのよ?


『特に、貴女には幸せなんてやってこない。……アタシがさせないわよ?』


貴女みたいに、性根から腐っている人間は。
この世にいる必要もないとも思うけど。
こう考えるのはアタシだけかしら?
双子である澪は、考えないのかしら?


『……アタシの事もあってから、澪は壊れやすい程優しくなってしまった……のよね』


アタシの所為で。
アタシの言動で。
アタシの結末で。

――――――――――。


『………ふふっ』





空気が、まるで鈴の音がなる一瞬の事のように、嗤った。













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