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17話†もう時≠ヘ流れている










麻央side




「………」


屋上に着いてしばらくすると、階段を駆け上がる音が聞こえた。
多分、跡部だろう。


「……っ麻央……」
「…あら?本当に切り捨ててきたみたいね」
「………」


跡部は無言でアタシに寄る。


「……お前は、平気なのか……?」
「………」


何を言いたいのかしら。


「あんな…事されて……」


あんな事……菊の花が机にあったこと?


「全然。アタシは澪じゃない」
「……でも、嫌だろ?」


……しつこい。
違うのよ、アタシは。
虐めを受けても大したダメージにはならない。


「……アタシは一度死んだの」


静かに跡部に言った。


「もう…感情なんてないわ。あるのは復讐への執念だけ。それだけで今ここに居るの」


あんな幼稚なことには興味がない。
そして、痛みもない。


「………」


跡部は理解したのか、黙った。


「………じゃあ、」


と、思ったらまた呟いた。





「どうして自殺なんかしたんだ……?」





跡部の目が鋭くアタシを見る。
……いつかは聞いてくると思ったけど。
早過ぎるわ。


「……それを知って何になるの?」


心地よい風が吹く。


「教えてあげてもいいけど、それを知るにはまだ早いわ。今は復讐の方が先よ」


真っ直ぐとアタシを見る跡部を横目に、アタシは屋上から降りた。
……自分の命を絶った時の話なんかされたら、こんな所に居たくなくなるわよ。
アタシは何もかも忘れてはいないから。
鮮明に覚えてる。自分の結末も。


「……知るのはまだ早い。知ってからでは………遅いのよ」


もう時≠ヘ流れている。
あの時から……ずっと。
ただ、淡々と、過ぎ去った。
過去の事は振り返らないで、今は現実を見るだけ。








「……っ復讐……か」


跡部は一人、屋上で呟いた。


「……悪いがな、麻央」


フェンスにもたれ、地に腰を下ろした。


「俺は、お前に復讐なんかさせねえ」


復讐をして何になる?
澪を守るなら、もっと別にあるだろ?
跡部は目を閉じた。


「……あの時が、一番幸せだったんだ」


闇に映るのは、一時前の光景。
自分たちは練習して、澪がサポートしてくれて……。
そんな、ごく普通のことだった毎日。


「その時に戻れば、皆幸せなんだ」


復讐は、また新たな恨み≠買う。
だが、戻せば。
戻せば誰一人傷つかない。


「……麻央には悪いが、俺は俺で動くぜ」


決心したように呟くと、跡部は立ち上がり屋上を降りた。
ただ一人の決意。

それは………自分の愛するべき人の為に。













あきゅろす。
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