67話:「で、身体を思い切り揺するんだにゃ!」
「みんなーっ!起きて!」
朝。
いつもに増して燦々ときらめく太陽を背に、麻燐は笑顔を見せる。
「……麻燐は朝早いんだな」
「えへへ、いつものことだよー」
眼鏡をかけた乾に微笑む。
柳はとっくに起きていて、すでに着替え始めていた。
「麻燐がこの時間に起きる確率は99%だった」
「ほんとう?さすが蓮二くん!」
「ぶっ!!」
麻燐の言葉に、隣で寝むそうに目をこすっていた菊丸が噴出した。
「……や、柳がそう呼ばれると、なんだか違和感があるにゃ〜」
「失礼だな。俺は妹にもたまにそう呼ばれるから違和感などないぞ」
「……ああ、だから麻燐さんの目の前でも平気で着替えられるんですね」
「ああ。これくらいで恥じる必要はない」
「蓮二は意外とシスコンだからな」
「……その話はするな、貞治」
柳が少し眉を寄せる。
タブーなんだろう。
その柳の様子と打って変わって、柳生は起き上がるものの着替えない。
「私は妹の前でも決して裸体など見せることはありません」
「それはお前が恥ずかしがり屋なだけだろう」
「ち、違います。これは紳士として当然のマナーで……」
言い通そうとする柳生の様子を見て、柳はふと笑って自分のことに専念した。
「それにしても、向日はまだ起きないかにゃー」
「がっくん先輩はお寝坊さんなんだね」
菊丸と麻燐が向日の顔を覗き込む。
完全に眠っているようで、寝息を立てている。
「あ、こう見るとがっくん先輩って睫毛長いんだね」
「本当だー。意外だにゃあ」
「がっくん先輩、目が大きいから羨ましいなー」
「えー麻燐だって大きいじゃん」
「………(何故だかここは女子の部屋のようにも思えます)」
紳士は会話だけでもどきどきしてしまうのです。
それを見かねた乾が、
「菊丸、麻燐、起こしてやれ」
「わかった!」
麻燐が素早く返事をして、向日を呼ぶ。
「がっくんせんぱーい!朝ですよー!」
呼びかけるが、起きない。
「ん…揺すった方がいいかな?がっくん先輩ー!」
麻燐が向日の身体をゆさゆさと揺する。
すると向日は少し動いた。
……が、体勢を変えただけで起きなかった。
「うーん。しぶといなー。麻燐、こうなったら向日に飛び乗るんだにゃ!」
「え、でも……」
「いーのいーの。早くしないと閉会式に遅刻しちゃうし」
「…それならしょうがないね!」
麻燐はとおっ!と向日のベッドに飛び乗る。
「で、身体を思い切り揺するんだにゃ!」
麻燐は頷くと、菊丸の言われた通りに向日を力いっぱい揺すった。
向日の首がかなりガクガクしていたが、これも起こすため、と思い周りは止めなかった。
そして、
「う、ああっ!」
悲鳴と共に向日は目を覚ました。
「あ、起きたーっ!」
「麻燐っ……な、なにやってんだよ」
「がっくん先輩を起こしてたの」
向日はふと自分の今の状況を確かめる。
自分はベッドに寝ていて、麻燐はそんな自分の上に乗っかって自分の顔を覗きこんでいる。
「がっくん先輩なかなか起きてくれないからー」
「も、もう起きたからそこを降りろっ!」
「はーい」
麻燐は起きたことが嬉しいのか、にこっと笑ってベッドから降りた。
そして自由になった向日は息を整える。
「(やべえ……一瞬侑士の気持ちが少し分かったぜ)」
一瞬でも理性を失いそうになった自分が悔しかったようです。
「あははー。向日面白いにゃー」
「うるせえっ!」
からかう菊丸に牙をむく。
そんな様子を麻燐は楽しそうに見届け、
「じゃあ麻燐はお部屋から出てるね。もう少し時間があるからゆっくり着替えても大丈夫だよ!」
時間を確認して、麻燐が部屋を出ていく。
パタパタと足音が遠くなり、その場に居たほぼ全員がほっと一息ついた。
「向日くん………破廉恥です」
「っ俺がやったんじゃねえよ!!」
再び顔が赤くなる向日。
墓穴を掘ってますね。
「しかし、麻燐が居るだけでこんなにも朝から賑やかなんだな」
「ああいうキャラは珍しいからな」
「あーっ、あんな妹が欲しかったにゃー」
それぞれ呟いた。
そして柳生もようやく着替えを始める。
「……麻燐さんはしっかりした一面も持ってますしね」
「そうだな…。ああ見えて、意外と俺たちのこと見ててくれるし」
「あんな子がマネージャーだったらきっと美味しいドリンク作ってくれるんだろうにゃー?」
「……俺は味より栄養重視派だ」
菊丸の言葉に乾は眼鏡をかけ直して答える。
「……皆、準備はできたか?」
「おっけーだよ」
「俺も」
荷物を持ち出して閉会式をするので、柳が確認をとる。
そして全員が準備したのを見て、移動を始めた。
次はいよいよ閉会式です。
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