136話:「でも、また遊びに行くからね」 その後は、就寝時間ぎりぎりまで皆と騒いだ。 今までの思い出話をしたり、 またいつか遊ぼうと約束をしたり、 本当に楽しく、合宿最終夜は幕を閉じた。 「はぁーっ!今日は一番楽しかったかも」 「そうじゃなあ。あんなにはしゃいだのは久しぶりじゃよ」 「先輩たちも、いつもよりテンション上がってたッス」 部屋に戻ってベッドに座ると、皆も疲れたように自分のベッドに座った。 雅治は、んっと伸びをして、リョマははしゃぎ疲れたのか、少し眠たそう。 「この部屋で皆と寝るのも今日が最後だね。なんだか安心できるような寂しいような……」 初めの方は、自分の身を守るのに精一杯だったし。 「ああ、明日から未永のぬくもりを感じられんとは、寂しいのう」 「なんだか妙な誤解を招く言い方はやめてっ」 私は雅治にぬくもりを与えた覚えはない。 しかも分かって言ってるから、本当にタチが悪いね! 「お前ら、いつまでも喋ってないでさっさと寝ろ。明日、起きられなくなるぞ」 「……やば。寝坊したら部長に怒られる」 景ちんの言葉に、リョマは急いで寝る準備をした。 「そうじゃな。俺も朝は弱い。そろそろ寝るぜよ」 「了解!じゃあ皆いい?電気消すよー」 私は皆の了解を得て、電気を消す。 ぎりぎりまで起きていたせいか、皆の寝息がすぐに聞こえてきた。 それに比べて、私は未だ興奮が抜けなくて寝れないでいた。 ああ……また、学校&あの騒がしい部活の生活が始まるのかあ。 久しぶりのような気がする。 合宿での練習と、部活とでは全然雰囲気が違うからね。 ……って、それも考えてたらどんどん眠れなくなる! 遠足前の小学生かっ!! ……自分でツッコミって、結構悲しいんだね。 ………。 ……よし、羊でも数えて寝よう。 そうしたら無意識にでも寝ちゃうはず。 羊がいっぴーき、羊がにひーき、羊がさんびーき………。 「おはよう。最後の夜、良い夢は見れたか?」 「ふぁ〜〜あ……まだ眠いッス」 「俺もじゃ。これで夏休みが終わりだと思うと、なんか気分が下がるのう」 「………………」 結局羊を489回数えてしまった。 どうせそこまで数えたなら500回までいきたかったな……。 まぁそんなことはいいとして、 「どうした未永。なんだか目がほとんど閉じてるぞ」 「閉じてるんじゃなくて…開けられないの…」 これでも開けようと必死なんだよ。 でもっ……まだ全開するには時間がかかりそうなの。 「なんだか、柳にそっくりやのう」 「……いや、不二先輩だよ」 どっちも怖いからいやだよ。 「…まあ、早く着替えろ。今日は閉会式をして帰るぞ」 「ふぁーい…」 私は景ちんに促され、着替える準備を始めた。 それに気付き、皆は部屋の外へ出る。 そして着替え終わると部屋の外にいる3人と一緒に体育館へと向かう。 顔もちゃんと洗ったし、目もばっちり開いたよ! 「あっ未永ー!おっはよーん!」 「英二!おっはよー」 「くすくす、未永ちゃんは本当にいつでも元気だね」 「でしょ!あっちゃん。特に今日はすぐにお別れだから、しっかり私の顔を焼き付けてもらおうと思って!」 「そんなの、有難迷惑だよ」 「なっ!……ああっ、昨日の優しい深っちはどこへ!」 そう言うと、深っちは少しだけぼやき始めた。 うん、いつもの深っちだ。 「あ、未永ー!こっちこっち!」 「がっくん!」 「もうすぐ閉会式が始まるってよ。ちゃんと並んでないと跡部に叱られるぜ?」 「危ない危ない!よし、じゃあ待ってよう!」 私たちは皆整列して、挨拶がされるのを待つ。 そして、景ちんが出てきた。 「お前ら!1ヵ月の合宿、ご苦労だった」 マイク片手に、偉そうに喋る景ちん。 「誰もが思ってると思うが、この合宿は夏休みという長い期間を利用して開催された。だが、その1日1日が無駄じゃなかった。どれも、価値のある日々だった」 なんだか難しいこと言ってるような…。 私にはよくわかんないけど、景ちんもこの合宿に満足したってことだよね。 「この期間を無駄にしない為にも、これからまたお互いの親睦を深めていくことにする。俺達氷帝は、いつでも挑戦を受けてやるぜ」 もう、景ちん! 仲良くするのか喧嘩を売っているのか分かんないよ。 まぁ…これも景ちんなりのやり方だから私はちゃんと分かってるけど! 「それでは最後に、監督の言葉だ」 話が終わったのか、景ちんが太郎ちゃんにマイクを渡す。 おお。久しぶりの登場だね! 「皆、今回は本当にご苦労だった。私も、氷帝の監督として良い経験ができて良かったと思っている」 しっしかもいつになく真面目に話してる! なるほど……ここで印象を残そうとしているな! 「なので、この先、何年経っても……お互いに良いライバルだと言えるよう、切磋琢磨していこう。では……」 く、くるっ!! 「行ってヨシ!」 はいっ!合宿最後の「行ってヨシ!」頂きましたー! これを合図に、皆はその場を解散する。 そして外へ……それぞれの帰るバスへと向かう。 「これで本当にお別れだね……」 「そうだね。周助、あんまり皆を虐めたらだめだよ?」 「くす、僕が虐めるのは未永だけだよ」 「そ、それはそれで困るけど……ねっ、薫ちゃん」 「なっ」 急に振られて、驚きを隠せない薫ちゃん。 ああっ、こんな可愛い子ともお別れだなんて……! 「でも、また遊びに行くからね」 「……フシュー…きっと、全員歓迎すると思うッス」 「本当?」 「ああ。またいつでも来るといい」 「国ぃ……うん、部長のお許しももらったことだし、また行くよ!」 「今度はもう少しテニス練習してきてよ」 「う……やだよ。リョマ強いし」 「機会があったら教えてあげるからさ」 り、リョマが笑ってる……! その珍しく素直な態度に、私は断ることができなかった。 「わかったよ!じゃあまたねっ!」 短いけど、お別れを言って、青学の皆はバスに乗り込んだ。 「あーあ。未永ちゃんとお別れなのは残念だなぁ」 「キヨ、山吹もマネ雇えばいいじゃない」 「うーん、そうしたいんだけど、俺はもう引退だからなぁ。これまた残念」 「また現金な。……そう言えば、次は太ちゃんがテニス部を引っ張ることになるんだよね」 「は、はい!今の2年生の先輩たちと協力して、頑張るです!」 「あはは、頼もしい選手だな」 「あ、きっぺー!」 ここで、不動峰の皆も登場。 どうやら途中まで行き先が同じだから同じバスに乗るみたい。 「俺たちだって、来年はもっと強くなってるッスからね!」 「あはは、不動峰は仲が良いから楽しみだなぁ」 「……氷帝になんか負けないから」 「あっ!言ったな深っち!氷帝にだってチョタやピヨや樺っちが居るんだから!」 「でも負けないから」 深っちに宣戦布告をされてしまった。 うーん、結構な自信だから、今の二年の子に伝えてあげよう。 いいライバルが居て先輩として嬉しいよ! 「そういえば、仁ちゃんは?」 「亜久津なら先にバスに乗っちゃったよ」 「ええっ!まだお別れ言ってないのに!ちょっと行ってくる!」 私は山吹・不動峰のバスに向かう。 「仁ちゃん!」 「……なんだよ、最後までしつこいやつだな」 「仁ちゃん、高校でもテニスやるんでしょ?」 「はあ?俺はもうテニス止めたって……」 「また高校でも会えるといいね!私、仁ちゃんの活躍楽しみにしてるから!」 「……ったくお前は、人の話を聞け…」 「絶対だよ!約束だから!」 「あーあーわかったようるせえな。……早くバスから離れろ」 「はーい」 よし、ちゃんとお別れも言えたし、山吹と不動峰もバスに乗り込んだ。 この調子で皆に最後のお別れしなきゃ! ←→ |