135話:こんなにも……素直に自分の気持ちを言えるなんて 「もう景ちん!こんな楽しい時間になんてことを言うのよ!」 あっさりと私の気持ちを裏切られてしまった。 だから私は目を吊り上げて怒った。 「ばーか。ちゃんとやることやってから楽しめ」 「ぶう…。今日くらいいいじゃん」 「だめだ」 「ケチ!」 そうやってあっかんべーをすると、景ちんはわざとらしい大きな溜息をついて、 「そうか、わかった。じゃあ夏休み後だが、担任に頼んで補習を増やしてもらうか」 「うっ!」 「……俺が知らないとでも思ったか?この合宿に参加する代わりに、補習を無くしてもらったんだろ」 「うぐ、」 確かにそうだ。 本当なら補習を受ける為に学校に残らないといけなかったのを、あのテニス部の合宿だから!と担任のナオちゃんを説得したんだ。 その時だったかな。 夏休みにやり遂げた物≠ニいう新しい課題を出されたのは。 「でもまあ、未永がそういう気なら仕方ねえな」 景ちんが私に背中を向けようとした。 やばい。 このままじゃ、私の学校ライフラストスパートに補習という名の地獄が! 「ま、待って景ちん!分かった、私今から皆に説明するから!」 「説明?」 「うん!私のこの夏休みで創ったものは、物じゃないの!」 「………?」 景ちんが訳分からなさそうな顔をしたけど、私は構わずマイクを握る。 そして、少し前、お別れ会開始の音頭をとった時みたいに皆の方を向く。 すると、すぐに皆は私に気付いて近くに寄ってきた。 「どうしたんスか、未永さん」 「おっ桃ちゃん。ちょっと待っててね、私は今からやることがあるの!」 同じくハテナマークを浮かべている桃ちゃんにVサインを送る。 そして私は、マイクを口に寄せ、 「皆!楽しんでいるところ悪いんだけど、私の話を聞いて!」 言って、皆の視線が集まったのを確認する。 うわ、すっごいこっち見てる……。 少し緊張するけど、そんなものは遠くに飛ばして、 「皆は私の宿題について、知ってるよね?」 そうやって聞いてみると、ところどころからあの話題が出る。 「宿題って、あの担任に言われた課題か?」 「あ、なんか言ってたッスね、夏休みの……」 「何ぃ!?中原はまだ宿題を残していたのか!」 がっくん、アッキー、弦ちゃんがそう言った。 「って弦ちゃん、そんな怖い顔しないでよ!」 眼力が半端ないね。 赤やんが怖がるのも無理ないなぁ…。 「で、その宿題がどうかしたのか?」 「よくぞ聞いてくれた蓮ちゃん!私の最後の宿題、夏休みにやり遂げた物≠ニは……」 私は一呼吸置いて、皆の顔をじっくり見た。 ほんと、こんなに多くの人たちに囲まれて、私この1ヶ月間やってきたんだな…。 初めは色んな個性の人たちばっかりで、大丈夫か心配した時もあった。 黒い人には脅されるし、同室のあの3人には意地悪されるし。 本当、色んなことがあった。 ………でも、それを私は続けてやってこれた。 それは、ここに居る皆一人一人のおかげだよね。 「7校合同合宿マネージャーを、夏休みという1ヶ月間、やり切ったということです!」 そう言うと、皆は少し驚いたように目を開いた。 私は続けて口を開く。 「私は、昔から一人じゃ何もできなくて、周りに迷惑ばかりかけてた……。だから、何をやっても長続きしなかった」 「……未永、」 近くにいた亮ちゃんが私の名前を呟く。 そんな亮ちゃんに、私はにこっと笑いかけた。 大丈夫、という気持ちを込めて。 そして……もう一度皆へと視線を戻す。 「勉強も、運動も、特技も何もない私には……本当に、自分から誇れるものが何もなかったの」 もちろん、テニス部のマネージャーについても同じ。 「未だにテニスのルールが分からなかったり、スコアの付け方も分からないけど……そんな私でも、皆が笑顔で受け入れてくれたからここまで私はやってこれたんだよ」 「そんなっ……僕たちも色々と支えられてきたです!」 「ありがとう、太ちゃん」 太ちゃんには、私の姿を見て、テニスプレイヤーとして頑張るって決めたって言われた。 私……誰かにそんなことを言われたの、初めてだった。 なんだか…必要とされてるみたいで、すごく嬉しかった。 「少し前までの自分なら、きっとこの合宿も途中で投げ出してたと思う。……でも、皆のおかげで、私は1ヶ月間マネをやることができたの」 自分が間違いを起こした時に、傍で励ましてくれた亮ちゃん。 言葉はきついけど、本当は私の事を考えていてくれた景ちん。 寂しかったり、悩んでいる時に声をかけてくれた氷帝の皆。 いつも元気に、笑顔で私と接してくれていた他校の皆。 頼りない私でも、一緒に楽しくマネの仕事をやってくれた女の子たち。 「皆と過ごしたこの1ヵ月が、今の私にとって一番誇れることになりました!だから、私はあの課題、自信を持ってこのことを先生に伝えてきたいと思います!」 自分で自分が不思議に思えてくる。 こんなにも……素直に自分の気持ちを言えるなんて。 しかもこんなにたくさんの人の前で。 恥ずかしいという気持ちより、嬉しいという気持ちの方が大きいなんて。 「本当に皆、今日までありがとう!」 私は最後にマイクなしで、大きな声で皆に伝えた。 そしてお辞儀をする。 こんなふうに感謝の気持ちを伝えたのも、いつ振りだろう。 きっと、皆の前向きさが、私のことも変えてくれたんだね。 そうして顔を上げると、自然と拍手が聞こえてきた。 私は驚いて皆を見る。 するとそこには、優しい目で私を見つめている皆の顔があった。 「ひゅーひゅー!未永さん最高ッスよ!」 「そうだぜぃ。まさか、未永がそんなこと言うなんて思ってなかったし」 「赤やん…ブンちゃん、」 赤やんがとびきり大きな拍手で言った。 ブンちゃんも、「よく言った」みたいな笑顔を私に向けた。 「俺たちこそありがとう!未永!お前のおかげですっげー元気もらったぜ!」 「俺も1ヶ月間、楽しかった」 「バネりん…ダビちゃん、」 ぐっと笑顔で親指を立てるバネりんとダビちゃん。 私も思わずそれに応えた。 「何も俺たちだけが未永を支えていたわけではない。お前も、よく頑張ってくれた」 「そうだよ。俺たちの方こそお礼を言わないと」 「国ぃ…秀ちゃん」 あれ、嬉しさで私の目がおかしくなったのかな…。 国ぃが笑っているように見える。 「ああ。これが最後なんて惜しいくらい、お前には助けられた」 「……まあ、最後くらいお礼を言ってあげてもいいけど」 「きっぺー、深っち…」 二人とも、今日は特別優しい。 「んふっ。あなたを見ていると、様々な刺激があってとても楽しかったですよ」 「まぁ、普通の合宿よりは楽しかっただーね」 「観月ちゃん…アッピー、」 観月ちゃんにそう言われると少し照れるな。 アッピーは少し嫌味っぽいけど、言葉は結構優しい。 「うんうん。俺も、未永ちゃんを見てるといろんなこと教えてもらったなぁ」 「ふん……まぁ、そこそこ頑張ったんじゃねーの」 「キヨ……仁ちゃんまで、」 仁ちゃんも、横目で私を見てくれた。 なんだか認めてくれたみたいで……嬉しい。 そして、 「未永先輩、」 珍しく優しそうに笑っているチョタ。 その後ろには、同じような顔で私を見てくれている氷帝の皆。 「ナイス未永!俺、感動したぜっ」 「うんうん!俺、すっげー嬉しいC!」 「がっくん、ジロちゃん!」 わーっと飛び込んでくる二人を思わず抱き締め返す。 いつもより、ぎゅっと力を込めて。 「俺もめっさ胸にきゅうんときたわ。あかん、これは恋かもしれへん」 「あはは、きゅんとしてくれたのは嬉しいけど、それはきっと錯覚だよ」 「ふっ、冗談きついわ」 侑士が珍しく落ち込まずに、眉を下げて笑った。 私も思わず笑ってしまう。 「未永、よくやったな」 「あ、亮ちゃん!えへへ、私も、これくらいのことは返さないとね!」 「はは、未永らしいお返しだな」 皆にたくさん色んなものをもらったんだもん。 私も、たくさんお返ししないと。 「……未永先輩も、成長したってことですね」 「ピヨ!ピヨが珍しく褒めてくれたっ!」 「俺だって普通に褒めますよ。俺を何だと思ってるんですか」 「あはは、冗談だよ!ありがとう、ピヨ」 がっくんとジロちゃんの時みたいに抱き締めようと思ったら拒否された。 やっぱり恥ずかしさがあるみたい。 「ウス……俺からも…ありがとうございました」 「樺っち!何言ってるの、樺っちもいろいろと頑張ってくれてたじゃない」 「……ウス、」 「もうっ!こんな時くらいは謙遜しないで、照れてもいいんだからね?」 「う、ウス……」 「そう!これからもよろしくねっ!樺っち!」 うんうん、樺っちも大分私に心を開いてくれたみたい。 初対面の時はひどいことしちゃったから、嫌われてたらどうしようかと……。 「おい未永、」 「あっ……景ちん」 後ろから声をかけてきたのは景ちん。 腕を組んで立っていた。 「……どう?私の精一杯の感謝の仕方!」 「ふん……。本当なら、迷惑かけた分も謝ってほしいところだが、」 「うっ…」 「冗談だ。お前にしてはよくやったんじゃないのか」 冗談、って言ったのと同時に、今までにないくらい優しく笑った景ちん。 私も直球に褒められてどうしていいのか分からず反応に困った。 「ふ、なに赤くなってんだよ」 「うっさい!景ちんが珍しく素直に褒めるからでしょ!」 「俺のせいかよ」 伝えても、伝えきれないありがとう≠フ気持ち。 明日で本当にお別れだけど、 この気持ちだけは……絶対に忘れないよ。 ありがとうっ!皆!!! こうやって叫びたくなっちゃうのは、 皆のおかげなんだからね!! ←→ |