133話:今日はいっぱい楽しんじゃおう!! 「ほら、ハンカチだ。ちゃんと鼻水も拭いておけ」 「ううっ……ありがと、」 隣で国ぃがハンカチを渡してくれた。 私はその綺麗にたたまれているハンカチを受け取り、涙を拭いた。 こんなに嬉し涙を出すのは何年ぶりだろう。 もしかしたら、初めてかもしれない。 「未永ー、落ち着いたC?」 「うん……だいぶね。ジロちゃんありがとう、傍に居てくれて」 「俺も居たッスよ!」 「赤やんもありがと」 あの後は、景ちんに強制的に亮ちゃんから引きはがされた。 何でか分かんないけど……。 そして周りに慰めてくれる人が数人。 何だかんだで皆優しいよね。 「泣き止みましたか?」 「観月ちゃん……」 「ほら、これからは笑えよ。折角皆が用意したお別れ会だからな」 「きっぺー……うん、そうだよね。こんな時にこんな顔してたらだめだもんね!」 私はきっぺーの言葉に自分の頬を叩く。 そしてステージでマイクを持って準備をしている景ちんまで走った。 「ん?未永か。どうした、もう泣き終わっ」 「景ちんそれ貸して!」 私は景ちんからマイクを奪った。 隣で凄く不機嫌そうな声が聞こえたけど今は気にしない。 そしてマイクのスイッチをONにして、 「はーいこちらマイクテス!皆!お別れ会の準備はいいかなー?」 「「「うおおぉーっ!」」」 「うん、元気な反応ありがとう!私も今日は皆のおかげで思い切り楽しむことができそうだから、皆も同じように楽しんでこうね!」 「「「おっしゃー!」」」 「それじゃーお別れ会、始めてヨシ!」 氷帝の定番、太郎ちゃんのポーズでお別れ会の指揮を執った。 そしていつもよりちょっぴり豪華な食事や、真っ先にケーキに飛び付いたりして賑やかな幕開けとなった。 「……おい未永、俺様の出番をどうしてくれる…」 「あ、ごめん。でも私もやりたかったんだよねー司会」 「お前なんかに仕切れるかよ」 「ふーんだ。私だってやる時はやるんだから」 目の前で騒いでいる皆を見る。 1ヵ月…長かったけど、色んな思い出ができたなぁ。 こんな個性バラバラの人たち、うまくまとまるか心配だったけど……。 意外にも仲が良かったし、新しく関係が築けたみたいでよかった。 しかも、こんな頼りない私に、こんな大きなプレゼントをしてくれるなんて。 「……ねぇ、景ちん」 「なんだよ」 「最近、朝居なくなってたのって……このお別れ会の計画をしてたの?」 「………」 「もう隠さなくてもいいでしょ?」 この前までは、理由も分からず一人ぼっちにさせられて、怒っちゃったけど。 まさかこんなことをしてくれてたなんて…。 「……まあな。夜は勉強会があったし、やるのは朝しかなかったからな…」 「そっか。……ごめんね、あんなこと言っちゃって」 「景ちんなんて嫌いだもん!」 「……いや、俺も酷いこと言った」 「景ちんは悪くないよ。私が、景ちんの気持ちに気付けなかっただけ」 「………」 「でも、ありがとう。このサプライズ、すっごく嬉しいよ」 そう言って笑う。 本当に、予想外で嬉しい。 あの俺様な跡部が……。 私の為にこんなことをしてくれるなんて。 「ふん……いいから、あいつらのところに行ってこいよ」 「あはは、分かった。景ちんも早くおいでよっ」 そうして私は景ちんに促されたように皆の輪の中に入っていった。 今日はいっぱい楽しんじゃおう!! 「跡部、」 「…宍戸か」 未永が場を離れてすぐ、宍戸が跡部に近づいた。 「うまくいったみたいだな」 「ああ」 「一時はひやっとしたが……あいつがあんなに笑ってるから、俺も安心だ」 そう呟きながら、宍戸は未永を見る。 そこにはすっかり輪の中に馴染み始めた未永の姿。 「……未永が、あんなことを言うなんて、俺は思いもしなかった」 「あんなこと?」 宍戸は言った。 先程、未永が涙を零しながら呟いた言葉。 テニス部のマネージャーをして良かった それは宍戸にとって、意外でとても安心できる言葉だった。 宍戸は少し口元を緩める。 「俺、ずっと迷ってたんだ。未永にマネをやらせて良かったのか……。やっぱり、俺の中には昔の未永が居たんだ」 「………そうか」 「だが、そんな未永にあんなことを言わせるなんて……。やっぱ俺だけじゃなくて、テニス部の奴らの力がないとだめだったのかもな」 「……宍戸、おまえ未永のことになると、柄にもなくよく笑うよな」 「なっ、んなことねーよ!」 宍戸は目を丸くし、慌てて否定した。 だが、跡部は確信していた。 「まぁいい。これで、今の未永は昔の未永とは違うってことが分かったしな」 「……そうだな。俺も、少し心配しすぎたかもしれねぇ」 二人は未永を見つめる。 未永の笑顔。 昔とは違う顔。 跡部からしたら、いつもの笑顔。 それをこれからも守っていかなければいけない。 二人は、未永の姿を見てそう思った。 ←→ |