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109話:「この感動シーンに抱擁なしでどうする!」










はっきり言って誰でもいいから助けて欲しい。
これからある意味公開処刑だよね……。
皆の前で点数発表ですか!
普通は名前呼んで、はいって渡すだけなのに!
………あ、私しかテストやってないか。


「まずは国語だ」
「いえっさー!」


国語を採点してくれた部長はきっぺーみたい。
うん、きっと採点甘くしてくれてると思う!
だってきっぺーだもん!
優しいもん!


「未永は漢字は得意みたいだな」
「そうなの!読むくらいなら読めるんだよ!」
「点数は35点だ。赤点ギリギリってとこだな」
「おっしゃ!第一関門突破!」


ちらちらと拍手が現れる。
うんありがとう!
2年生の子だけどね!


「でもな、未永。尊敬語を全部『〜ござる』にするのは止めた方がいいと思うぞ」
「「「ござる!?」」」


きっぺーが苦笑いで私にテストの紙を渡すのと同時に言った。
だって、だってだって!


「同じ日本語なのに尊敬語とかあるの!?私には忍者の『ござる』か奥様の『ざます』しか思い浮かばなかったよ!」
「クスクス、これは未永の将来が本当に心配になるね」


あっちゃん!
私の将来の心配をしてくれるなんて……何て良い子なんだ!


「次は社会だ。社会は俺が採点したよ」
「サエっち!サエ様!ひゅーひゅー!」
「うん、意味がわかんないけどありがとう」


さり気にひどいことを言うのが板についてるね!


「結果から言うとね、社会は37点だよ」
「うわ!やった!高得点!」
「「「どこが」」」


全員揃って言われると何だか自信なくすなぁ。


「だって考えてみてよ。赤点だからプリント貰っちゃったんだから!」
「あ……そっか。ならこの点数はまだマシなんだにゃ?」
「そーゆうこと!」


うん、この合宿で成長した!
ママン!パパン!
私はやったよ!


「未永先輩ならまだ出来ますよね」
「ママン厳しいっ!私は褒めて伸びる子なの!」
「幸村さん、理科お願いします」


スルーされた!
放置プレイなのか……!


「よし、じゃあ次理科逝ってみようか」
「幸村さん字が違うような気がしまs「理科はね、結構出来てるんじゃないかな?」


あ、幸村さん家の奥さんも放置プレイなのね。
最近はやってますわね、放置プレイ……。


「点数は41点。30点台からの脱出だったよ」
「マジで!?わー!嬉しい!」


私は飛び跳ねてゆっきーから用紙を受け取る。
確かに41点!
これはめでたい!


「これもがっくんとの勉強のおか…「俺様だろうが、アーン?」


忘れてた。
景ちんのスパルタに変わったんだったなぁー…(遠い目)
あれだよ、Naがナルシストじゃなくてナトリウムだって教えてくれたもんね。


「アリガトウゴザマシタ跡部さま」
「棒読みだが?」
「……あー景ちんにお礼言うなんて悔しいもん!」


アン?と景ちんが眉を寄せたけど私はそっぽ向いてやった。
でも今回は赤点取ってないぞ。
どうしよう、私やっちゃうかも。
全教科赤点なしやっちゃうかも!
皆!期待してていいy「何勝手に一人で盛り上がってるんですか」

「だって嬉しいから!」


ピヨが、めでたい人ですね、と嫌味を言ったのも気にしない。
本当にめでたいことだから!


「次、英語と数学どっちがいい?」
「……それを私に選ばせるn「はっ!手塚の英語から言ってやれ」


何で景ちんが決めてるのかな…。
ねーねー誰か未永ちゃんのお話聞いてあげてよー。
痛いって自分でも理解してるんだよー!


「分かった。英語は、本当にギリギリ30点だった」
「え………」


そこで私の表情が変わった。
英語が、赤点脱出?


「………うま、」
「?」
「リョーマ!私のリョーマ様は!?」
「ぶっ」


ぴょんと飛び出してファンタを飲んでたリョマの後ろ姿に抱きついた。
感動!感謝感激!


「リョマ!私やったよ!リョマの教えてくれた基本だけ覚えてみたけど……できたよ!」
「ふ、ふーん。良かったじゃん……。でもさ、抱きつかないでよ」
「この感動シーンに抱擁なしでどうする!」
「…別にどうもならないけど」


後ろの方で、感動のシーン?はっ!と鼻で笑った周助は置いておいて。


「未永、まだ数学が残ってるぞ」


一気に現実に引き戻された…。
う、とリョマからそっと離れて机に戻る。
目の前には数学を採点してくれた景ちん。


「これで最後だな」
「はい」
「発表してもいいな?」
「はい」
「自信は?」
「はい」
あるかないかわかんねえよ


だって流れ的に考えて『はい』でしょ!


「まぁ、そんなことはどうでもいい。数学は、」


私の心にちょっと緊張が走る。
思えば数学が初めて受けたスパルタだった。
景ちんの顔を覗くと、真剣というか……とにかく真顔だった。
怖いいいいい!
思わず俯いた。


「50点だ」


一瞬時が止まった。
ぱっともう一度顔を上げると、「よくやった」と景ちんが笑っていた。


「え……も、もう一回言って?」
「50点だ。分かるか?100点満点中の半分だぜ?」
「は、半分……」
「すげーじゃん未永!半分だぜ!」


次こそ本当に全員から拍手をもらった。
所々から「おめでとう!」や「やったな!」という声が聞こえる。
え、え、え?
本当に……?


「景ちん…季節外れのエイプリールフールじゃないよ、ね……?」
「当たり前だろ。ほら、見てみろ」


景ちんから受け取った用紙には、本当に景ちんの字で採点がしてあった。


「やればできるじゃねえか」


景ちんがぽんぽんと私の頭に手をのっけた。


「ま!やっぱり俺様の教え方が上手かっ…「やった!!私初めて数学で50点取ったよ景吾!」


私は嬉しさのあまり景ちんに抱きついた。
あの時景ちんにたくさん叩かれたけど、脳細胞は死んでなかった!


「あ!跡部未永から離れるCー!」
「そうだそうだ!跡部だけずるいぜっ!」
「や、跡部からやないやろ」


皆の言葉が本当に嬉しかった。
やればできる。
その言葉も、すごく嬉しかった。


「ありがとう!景ちん!皆も!」


全教科赤点脱出!
これを夏休みの終わりに担任のナオちゃんに自慢してやろ!







「亜久津先輩」
「あ?」
「テストの点数でこんなに盛り上がるなんて、皆さんは優しいです!」
「……単に暇なだけだろ」
「やっぱりこういう時って、胴上げです!」
「……止めとけ、太一」


亜久津が常識人となりつつあった。













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