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91話:「あ、痛い痛い、げんこつ痛い」










「景ちんどこだ〜〜〜っ」


と、言っていると。
見つけましたよ前方約十メートルくらい先に。
あの堂々とした歩き方、ちょっと珍しいブロンズの髪。
そして何より氷帝のユニフォーム!
不機嫌なのかな?
ズボンのポケットに手を突っ込んで歩いてる。
よし、そうやって歩くと危ないということを教えてあげよう!


「けーいちーんっ!」
「あぁ?……うぉっ!」


景ちんが振り向く前に私は後ろから景ちんに抱きついた。
ジャンプしながらだったから首に腕巻きつけちゃったけど……窒息&ショック死はしてないよね。


「………。未永、いきなり何の真似だ」


荒い口調で私の腕を首から離す。
少し浮いていた私の身体は地面へと降ろされた。


「………景ちん」
「…何だよ」
「こっち向いてよ」


降ろしてもらってからしばらくしても景ちんは私の方を向こうとしなかった。
私に怒ってる?
それとも、
自分に怒ってる?


「景ちん……ごめんね」
「!………未永、」


知ってるよ。
景ちんが、人一倍責任感もあれば自分にも厳しいって。
ずっと前から。


「ごめんね……」
「未永……」


景ちんは、やっと私へと向いてくれた。
私は景ちんの目を見る。


「……悪かったな、その……さっきは。まさか、お前が謝りにくるなんざ……」
「へ?」
「は?」


あ、雰囲気ぶち壊してごめんなさい。


「違うよー景ちん……私は、さっき景ちんにいきなり抱きついたのをまず謝ったの」
「………」
「いや、景ちんの様子が暗かったから。あまりにも重い私をしばらく重力と反対に引っ張ったから……首でも痛めたんではないかと」
「…………」
「あ、痛い痛い、げんこつ痛い」


景ちんは私の頭を自分のげんこつではさんでギリギリした。
でも、ちゃんと見てたよ。
景ちんの顔が少し赤かったのを。


「……ったく、悪いと思って損したぜ」
「えー何でー?反省するのはとても良いことなんだよ?」
「てめぇには言われたくないセリフだな」
「そう?まぁまぁそんなカタいこと言わずに!」


跡部、貴方は気付いてる?
さっきまで暗かった跡部が、今は表情が柔らかくなってるよ。

私が小さい頃から望んでいるのはこれ。
周りの女の子にチヤホヤされている時の不機嫌な表情じゃなくて
普通に部活仲間と話している時の自然な笑顔が素敵なんだよ。


「ねぇねぇ、学園の跡部様」
「……急に何だよ」
「そろそろ部活が終わる時間だよ。一緒にご飯食べに行こう?」
「……そうだな」


仲直り完了!
景ちんの「悪かった」の一言も(不意打ちだけど)聞けたし!


「景ちん」
「あん?」
「さっきは嫌い≠チて言ってごめんね」
「……ああ」
「私、景ちんの事ちゃんと好きだから!」
「………っ」


そう言うと景ちんは私の顔から眼を逸らした。
もう、照れちゃってるのね!


「……俺も、お前のことは嫌いじゃねーよ」
「………?」


景ちんは私の頭を撫でてくれた。
何か最近、頭撫でられるの多いなぁ。
嫌じゃないからいいけど!


「あはは、もう!素直じゃないんだから〜っ」


嫌いじゃない≠チてまた中途半端だよね!
景ちんらしいって言ったらそーなんだけど。


「っ、うお!」
「はーい、気にしない気にしない!」


私はそんな景ちんの手を取って歩き始めた。
調子に乗ってブンブン振っちゃったのは流石に景ちんに似合わないと思った。
それでも景ちんは珍しく抵抗しなければ何も言わない。


「?」


少し変に思ったけど、すぐに戻ると思って気にしなかった。


「(……未永、)」





未永の知らないところで、跡部は眉を寄せた。
そして切なそうな表情を未永へと向ける。

お前の
本当の気持ちが知りたい。
お前は本当に
皆≠ェ好きなのか?
それ以上がなければ
それ以下もないのか?

本当にお前は
それで幸せなのか………?













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