C−3
「俺にくれるんですか〜?」
ヨザックは動揺した気持ちをいつものお茶らけ口調でごまかしながら薫を見た。
「うん。」
薫が短く頷いたので、ありがとなといってヨザックはチョコを素直に受け取ってくれた。
「でも、義理だからね!義理!」
「いわれなくてもわかってますって〜。」
とかいいながら舌打ちしそうだったのは、どこの誰ででょうかねとは決して突っ込まない薫だったが、きっとコンラッドのアレがヨザックに移ったんだと諦めることにした。
「そっかぁ。でもグリエ残念。」
「は?」
「出来れば、本命が欲しかったなぁとか思っちゃたり。」
語尾にハートが着きそうな口調でヨザックは薫に軽くウインクした。
ヨザックだから許されるこの行動。
薫は、なんだかいつもの調子のヨザックに安心した。
「頑張りなさいよ。グリエを振るんだから〜。」
「あはは…そうね、ガンバリマス。」
後半はなんだか棒読みになってしまった。
ヨザックの視線が一瞬鋭くなったのはきっと気のせいだろうと思い込む。
それにしても、バレンタインがここまで眞魔国内で浸透していると軽く恐怖を覚える。
おかげでチョコを渡しにヨザックから離れた薫を見送るヨザックの視線が、無性に痛いほど突き刺さっている。
薫はとりあえずヨザックから離れようと、あてもなくフラフラ歩いていると、懐かしいあの人物に出会った。
「アーダルベルト。」
「よく覚えてるな。」
名前と顔を覚えてているのが不思議なくらい、眞魔国内には現れないアーダルベルト。
とはいえ、忘れるはずなどないだろう。
なんせ、スタツアした最初に出会ってアーダルベルトとまさかの斬り合いをし、薫に術を施して言葉が通じるようにしたのは他でもないアーダルベルトだったからだ。
「お前、こんなところで何してるんだ?」
「えっと、とりあえず徘徊。」
言葉に詰まって苦笑いしながらそんなことをいったら、バカかお前はと言われた。
薫は軽くアーダルベルトを睨んでから、アーダルベルトに同じ質問を返してやった。
「アーダルベルトこそ、何しに?」
「いや、眞魔国で面白いことをやってると聞いたんだがな…。」
アーダルベルトのことだ、決闘か何かと勘違いしたようだが実際行なわれているのは『バレンタイン』。
アーダルベルトから盛大なため息が聞こえてきた。
「…災難だったわね。」
「まぁな。まさか、こんな儀式をやっているとはな。」
アーダルベルトは鼻で笑うようにそういって、薫を見た。
「お前さんも参加してるのか?」
「まぁ、ね。」
「そうか、せっかく来たのに儀式を楽しまないのも損だしな。
一個ぐらいもらっておくか。」
上から目線なアーダルベルトにはちょっとイラッとしたが、悪い人でないことは知っていたので我慢した。
(あれ?これはもしかして、渡しても大丈夫?)
『バレンタイン』?知るか、みたいにスッパリ断られるかと踏んでいた薫としては予想外だったが、別に渡しても大丈夫ならと覚悟を決めた。
「じゃあ、はい。」
本命チョコを渡す
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