丙ー参 「なんだ…コレは?」 「私の時代だと、今日はちょうど『バレンタイン』の日なの。 因みにバレンタインの日っていうのは、普段お世話になってる人とか好きな人とかにチョコを送る日のことね。」 「そうか…。」 泰明は相変わらず無表情なまま、無機質な包みを見つめていた。 「い、言っとくけど義理だからね。」 「義理?」 「だから…うん、まぁ、泰明にはお世話になってるからって意味の友達としてのチョコってことよ。」 なんだか他に比べて反応の薄い泰明が相手だと、無駄に緊張した。 あわてたような口調で説明すると、再び泰明はそうか、と呟いた。 「ありがたくいただいておこう。 この包みからは良い気が感じられる。」 たかがチョコごときでそこまで言われると褒められているのかどうだか不安になってくる。 「そう…。ぁ、じゃあ私はもう行くわね!」 手を振って薫は、泰明から離れていった。 ちくりと胸を刺すような痛みがした。 (…私は、何を。) そのとき、泰明に芽生えた負の感情が『嫉妬』だと気づくことはきっともっと先の話だ。 薫は、残った本命のチョコを渡すために藤姫の館に向かった。 館について、女房に取り次いでもらい、ようやく彼は薫の前に姿を現した。 「薫ちゃん、どうしたの?急に…。」 詩紋は首をかしげて、薫を見た。 「今日が何日か知ってる?」 「え…二月十四日でしょ。」 「二月十四日といえば?」 薫は詩紋にいたずらっぽく微笑んだ。 途端に詩紋はあっと声を上げて驚いたように薫を見た。 「……バレンタイン。まさか、その為に来てくれたの?」 本命チョコを渡す |