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乙ー参
「私にですか?」

「うん、いつも色々お世話になってるし。」

「いえ、私のような者が…。」

「良いから、もらって。」

永泉はチョコを押し戻そうとしたが、それより強い口調で薫は押し返した。

「永泉は自分を卑下しすぎよ、もっと自信持って。」

薫は念を押すように永泉に言った。

永泉はそんな薫の口調の中にどことない優しさを感じ、ありがとうございますと丁寧に礼を述べてチョコを受け取った。

「とても、嬉しいです。」

永泉は自分の気持ちを正直に言ったまでなのだが、不覚にも薫は頬を染めた永泉の表情に一瞬くらっときた。

そう、永泉とて顔が悪いわけでもなんでもない、ただ謙遜しすぎているだけなのだ。

「薫殿。」

「ん?」

「頑張って下さい。想い人にお渡しするのでしょう?」

「……うん、ありがとう。頑張るわ。

永泉に元気もらったおかげで何とかなりそうな気がしてきたわ。」

ふふっと笑うと、永泉はまたしても謙遜しながら頬を染めた。

「じゃあ、またね。」

「はい、ご健闘をお祈りしています。」

まるで戦場に赴く武士を励ますような永泉の勢いの言葉に手を振って、薫は永泉と別れた。

それから、しばらく歩いて羅城門辺りにイノリを見つけた。

「イノリ!」

「おう、薫じゃんか。」

「親分、誰?こいつ鬼じゃ……いてっ。」

駆け寄った薫を鬼だといったイノリの子分をイノリが殴った。

ちょっと痛そうだ。

「何すんだよ、親分。」

「むやみやたらと、鬼だ鬼だって言うな。」

「へいへい。」

なんだかんだ言って信頼されているためか、イノリの言うことをすぐに聞き入れていた。

薫は微妙な心境でそんな二人を見ていた。

「どうしたんだよ?」

「あぁ、えっと、イノリに用事が…。」

今更ながらなんだか恥ずかしい。

それもそうだ。何故なら、今回は薫とイノリをニヤニヤしながら見比べている子分もいる。

イノリは話を切り出しかねている薫に気づき、

「なんだ?ここじゃ話しづらいか?」

と、話を振ってくれた。

「うん…ちょっと。」

「そうか、ちょっとついて来い。」

「え…。」

イノリに手を引かれ、着いた先は今日が一望できる木の上だった。

何もこんな場所まで来なくても、と思ったが、イノリは嬉しげだったので何も言わないことにしておいた。

「で、なんだよ?話って…。」

「ええとね、私の時代だと、今日は『バレンタイン』の日でね。

それで、お世話になった人とか好きな人にチョコを送る日なの。

イノリにも受け取ってもらいたいと思って…。」




本命チョコを渡す






あきゅろす。
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