甲ー参
「なんだ?」
「えっとね、今日は私の元々いた時代の日付だと『バレンタイン』の日で、お世話になった人とか好きな人にチョコをあげる日なの。」
「ふ〜ん。」
セフルは、そっかといって薫のチョコを受け取った。
「で、俺はどっちなんだ?」
セフルは、薫の顔を覗き込むように見つめてきた。
セフルの顔が近すぎて、顔が真っ赤になって緊張している自分がわかった。
「義理に決まってるじゃない!」
思わず、叫んでしまった。
それを聴いた瞬間にあからさまにセフルがへこんだ様子だったので、言ったあとで薫は後悔した。
(ごめん…セフル。だけど、私は…。)
内心、罪悪感を感じて心の中でセフルに両手を合わせて謝った。
「まぁ、良いけどね。頑張りなよ、薫。」
しかしそれでも、俺は別に気にしてないぞ的な様子で強がるセフルが可愛い。
しかし、今それで抱きつくのはセフルがかわいそう過ぎるのでやめた。
「まぁ、お前が好きなヤツに受け取ってもらえなかったら、慰めてやる。」
「…うん、ありがと。」
セフルの言葉に嬉しいながらも、少し凹んだ。
これから渡しに行く女の子に対して、『受け取ってもらえない』は禁句じゃなかろうかという突っ込みはあえてやめた。
逆に、なんとしてでも渡してやるわ!という気になった。
感謝すべきか、どうするべきか、乙女としては微妙な心境である。
「じゃあ、行ってくるわ。」
「あぁ。」
セフルに見送られ、鬼の住まう洞窟を後にした。
薫の後姿が見えなくなるまで、セフルは目で追っていた。
(薫を泣かせたら、その男なんか俺が倒してやるから。)
そんな決意を胸に秘めながら。
一方、京に戻った薫は、本命の彼を捜し歩いていた。
そして、藤姫の館に彼はいた。
そう、源頼久である。
「頼久。」
「薫殿。どうかなさったのですか?」
急に木陰から現れた薫を見て、頼久は不審気に薫を見た。
「今から、神子殿を呼んでまいりますので、少々お待ちを…。」
「ああ、あかねは呼ばなくていいわ。」
「そうですか。では、藤姫様ですか?」
さすがは頼久だと思った。
まさか薫が、頼久自身に用があるとは微塵も思っていない様子である。
そんな頼久の鈍感さが、なんとなく安心できた。
「えっと、頼久に用事があるの。」
「私…ですか?」
唖然とした様子で薫を見つめる頼久。
期待を裏切らない人だと、薫は思った。
「はい。」
そして、
本命チョコを渡す
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