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ツェリに「息子と結婚して」やら「恋愛相談」やらを受けながら、長い風呂は終了した。
(久しぶりに長い風呂に入った気もする)
そして、薫は自分の着替えが無いことに気づいたが、ツェリが快く貸してくれた。
とはいえ、ツェリの服は何かと露出が激しく、選ぶのが大変だった。
「まぁ似合うじゃない!?」
幸い、サイズはほぼピッタリだった。
ツェリは感激して、薫を抱き締めた。
ツェリからは淡いシャンプーの匂いが漂って、なんだか心地がよかった。
ツェリは自室に薫を誘ったが、グレタが一緒に寝る約束をしたと言い、薫はそのままグレタと有利の部屋に向かった。
(あともう少しで逃げられそうだったのに…)
しかし、グレタの無垢な感情を傷つけるのも気が引けた。
「うーん、グレタ。
やっぱり私、有利達とは一緒に寝られないわ」
扉の前で薫は言う。
ましてやヴォルフラムとはまだまともに話もしていなければ、明日決闘をするいう間柄だ。
下手に干渉しあうのは避けたい。
「カオルは有利のこと、嫌い?」
「ううん、嫌いじゃない。
でも、あのベッドに四人は狭いし、貴方のお父様方のお邪魔かなぁと思って…」
するとグレタは、意外にも笑って頷いた。
「うん。じゃあ今日は、カオルと二人で寝る!」
「え?」
「さっきね、食事の時にユーリとヴォルフラムから聞いたの。
カオルが明日、ヴォルフラムと決闘するって。
だから、今日はカオルと寝たいの。
ヴォルフラムにはユーリがいるけど、カオルにはいないから。
私がカオルの支えになってあげる」
純粋なグレタの想いに薫は深く感動した。
「わかったわ。ありがとう。
明日は、私もヴォルフラムと仲良くなれると良いわね 」
「大丈夫!だって、グレタのお父様だから」
「うん、そうね」
「じゃあ、ユーリに今日はカオルと一緒に寝るって言ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
廊下に佇み、グレタを待つ。
がらんどうな廊下。
風もなく、何一つ音のない静かな空間。
薫は静かに目を閉じた。
『――…よ、忘れたか?』
「…え?」
目を閉じて暫く、声が聞こえた。
急に、激痛が頭を襲う。
アーダルベルトに何かされた時と同じ痛みだった。
しかし、見回しても周りに人の気配はない。
頭に直接問いかけられているような不思議な感覚。
『全く、あの大賢者は何をしていた…?』
「は?」
心なしか機嫌の悪い声。
(何処か、懐かしい…?)
身体がそう言っている。
『まぁ、明日になればわかる。
それまで、また、な。』
不意に声が途切れた。
すると、薫は急にどっと汗があふれ、身に疲れを感じてその場にしゃがみこんだ。
そして、そのまま薫の意識は途切れた。
(…貴方は誰?)
その問いは、彼方へと誘われる。
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