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「ここが俺の部屋だよ」

有利に案内され、中へ入る。

だだっ広い部屋に、高級家具やらがあり、正直薫は驚いた。

さすがは魔王、などと感心する薫だったが、そんな暇もなく部屋に入るや否や、ベッドの上にいた少女が有利に向かって走ってきた。

突進せんばかりに有利に抱きついて、満面の笑顔を浮かべる。

「ユーリッ、おかえり!」

「あぁ、グレタ。ただいま。」


嬉しそうなグレタという少女と有利。

「あれ?ユーリ、この人は?」

グレタがちらりと薫を見る。

「えっと、薫は…。」

返答に困っていると、グレタは突然目を輝かせて言った。

「もしかして、新しいお母様!?」
「「ぶっ」」

有利と薫は、二人同時ににふいた。

その様子を見て、コンラッドが爽やかに笑っている。

「いや、違うんだよ。
薫は村田の友達で……」
「…そうだったんだ」

有利が必死に弁解すると、グレタはションボリした。

「ええと、幸村薫です」
「私、グレタ」

(ん?待って…)

薫は有利とグレタを見比べる。

「ねぇ、グレタ。
貴方のお父様って…」
「ユーリとヴォルフラムだよ」
「え……。」

瞬間、薫は固まった。


「あぁ勘違いしないで!グレタは養子なんだよ。
まぁ大事な俺の娘には代わりないけどな」

有利は娘に至るまでの経緯を、薫に説明した。

有利の溺愛っぷりは、先ほどの愛の抱擁と満面の笑みでグレタを迎えた有利の行動で既に確認済み。
(でも父親二人って……)

微妙な心境と思いながら、両親の居ない薫はそれすら羨ましいと感じた。

「グレタはお母さん欲しい?」

「ううん、ユーリとヴォルフラムがいるから大丈夫」

しかし、グレタの表情には何処か陰りがある。

(私…)

胸に引っかかる小さな傷が疼き、気づけば薫は口に出していた。

「良いわ。私、貴方の母親になっても。」
「え!?本当?」
「ええ!?マジで!?」
「良かったですね、陛下」

グレタと違う意味ありげに、コンラッドは有利に笑いかけた。

「え、えっとじゃあ、お母様?」
「…可愛いっ」

未だ言い慣れない言葉をたどたどしく言うグレタが可愛くて思わず抱き締めた。

「「…ぁ」」


薫の微笑んだ表情に、有利とコンラッドは苦笑いしながら、紅潮した。

不意打ちの笑顔というものは、男のツボをつくものらしい。

「今日、グレタ、お母様と寝るー!」

一方グレタはすっかり薫になついたようだ。

きゃあきゃあ騒ぐ嬉しげな娘を見て、有利はちょっと寂しくなった。

「あぁ、なんかちょっと複雑」
「ですね」

そこでふと、薫は言った。

「あの〜、そういえば私って何処の部屋を借りれば良いの?」

「たぶん、何処かの客間だと思うよ。」

コンラッドが考えながら言った。
「でも、ユーリと薫は寝るお部屋は一緒だよね?」

「「「え」」」


「だって、ヴォルフラムはいつも来てくれるよ」

時に子供は恐ろしい発言を言うものだと、有利は自らの教育を見返して苦笑いした。

「あ〜アレはちょっと例外っていうか…来るなって言っても聞かないし」



「じゃあ、今日は四人で寝るの!?グレタ嬉しい〜!」

グレタは違う意味あいで言葉を受け取ってしまったらしい。

あまりのグレタのはしゃいでいる様子を見てしまい、真実を告げるのが辛くなってしまった。

困り果てた一同の前に、一人のメイドが現れ、夕食の準備が出来たと知らせてくれた。


話が曖昧なまま、グレタは左手に有利と右手に薫と手を繋ぎ、上機嫌で夕食に向かった。

食卓へ案内されると既に皆、揃っていた。

そこへ一人、見慣れない美女が小走りで駆けてきた。

ウェーブかかった金髪と口紅をひいた唇、極めつけはセクシーなドレスだ。

女性の薫ですら目を見張る美人だった。

「陛下、おかえりなさい」

「ツェリ様!?」


突然の美女の抱擁に有利は戸惑いながら、それを必死に引き剥がした。

「あら?貴女はもしかして…」


不意に美女は目を輝かせて、困惑気味の薫を見た。

「美しいわ!私、貴方のような娘が欲しくて堪らなかったのよ!

ヴォルフは私に似ているけど、やっぱり男の子だから、最近は昔のようにお着替えしてくれないし…」


「母上!?」


テーブルについていたヴォルフラムが顔を真っ赤にして立ち上がり、美女へと向かっていった。


「僕はれっきとした男です」

「はぁ、男の子ってつまらないわぁ」

キッパリと言い切るヴォルフラムを前に、美女は頬を押さえてため息をつく。


「ええと、すいません。どなた様ですか?」
「あら?自己紹介がまだだったわね。
ごめんなさい、私はフォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエよ。」

「ええと、すいません。もう一度お願いします。」

「ふふっ。ツェリでいいわ。」

何だか呼び捨てしてはいけない気がしたので、とりあえず有利を習ってツェリ様と呼ぶことにした。
「ねぇ、貴女。
私の息子達の誰かと結婚する気ないかしら?」

「え…?」

確かにさっきの会話でヴォルフラムが息子というのはわかったが…。

思案している薫を見て、ツェリは微笑んだ。

「私には、三人息子がいるの。
グウェンダルとコンラート、そしてヴォルフラムよ。」

(に、にてない!?)

とりあえず顔を見る限りは、とても兄弟だとは思えない。

後ろにいたコンラッドを見ると、目があった。

「俺たちはそれぞれ父親が違うんだよ。」

コンラッドの補足の言葉に薫は納得した。

「それで、誰かと恋したいと思わない?
まだこの際、結婚は先でも良いわ。」

「いや、私には…。」

「既に気になる殿方がいるの?
そうなら、しょうがないわね。

でも、私はいつでも貴方の相談に乗るわよ」

「母上、カオルが困ってますよ。」

コンラッドが見かねて助け船を出した。

「あら、ごめんなさい。私としたことが…。
夕食にいたしましょう?」

そうして、ツェリの合図で夕食がスタートした。


(あれ…コンラッドのお母さんてことは先代魔王!?)

薫は、1人冷や汗を浮かべて魔族3兄弟とツェリを見比べる。


前途多難の予感がした。









夕食時、有利は所謂誕生日席。


薫は、とりあえず村田の右隣に席を置いた。


さすがにこの時ばかりは、知り合いの隣の方が安心できた。

村田は快く、それを受け入れてくれた。

正面にはコンラッド。

とりあえず安心できる配置だ。

ヴォルフラムは有利に近い席にいた。

なんとなく声をかけづらい。

(明日の決闘で上手く和解できると良いなぁ。)

と呑気に考えていた。

「そういえば、二人は同じ学校なんですよね。」

コンラッドは二人に話をふった。
「えぇ、まぁ。なんで?」

「いや、お二人はあちらでどう過ごしてるのかと思いまして…。」
村田の性格上、あまり自分のことは話さないのだろう。

有利は、かなりいろいろ話しまくってそうだが…と薫は思わず苦笑いした。

「僕は別に普通だよ。」

「うーん、私も。」

「そうですか。」

話の続かない二人を見て、コンラッドは少し残念そうに肩を竦めた。

そんなコンラッドの気遣いに気づき、薫は慌てて話を続けた。

「最近のことと言えば文化祭が今度あるから、今はそればかりね。
まぁその前に来週は中間考査だけど…」

「文化祭?」

「うん、学校でやってるお祭りみたいなヤツかなぁ。
中間考査は、テストのことね」

「あぁ、テストのことは良く陛下も話してますよ。
赤点がどうとか…」

コンラッドの言葉に急にリアリティを感じた。

「村田君は成績良いよね」

「薫もあんまり変わらない気がするけど」

「うーん、テストについては陛下が心配ですね。
カオルも時々助けてあげて下さい」

「うん、わかった」

「でも、私も行ってみたいですね。文化祭とか」

「コンラッドは地球に来たことあるんでしょ?」

「いや、ほんの数回ね。
自分の力だけでは行けないんですよ」

そんな話をして、夕食が終わった。

なかなか楽しい夕食だったし、緊張もだいぶ解けてほっとしていた薫だったが……。


「カオル!一緒にお風呂入ろー!」


夕食の直後、グレタが薫の方へ駆けてきた。


「まぁ!?では、私も」


グレタに続き、ツェリも慌てて立候補した。

有無を言わさぬツェリの手に引かれ、薫は男衆を置いて行ってしまった。


グレタは出ていく間際、

「またあとでね!」


と、有利に手を降った。


(あぁ、今日の夜どうなるんだろ…)


半ば冷や汗をかきながら、薫はただツェリに手を引かれていた。






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